IT業界のグランドデザインを問う SIerの憂鬱

<IT業界のグランドデザインを問う SIerの憂鬱>第12回 顕在化した強者・弱者の関係

2007/06/25 16:04

週刊BCN 2007年06月25日vol.1192掲載

 今年3月末に2006年度通期決算を迎えた情報サービス関連の株式公開企業(個人向けサービス/エンターテインメント系を除く)は221社(IT記者会調べ)。それを売上高規模別で集計すると、あるラインを境に明暗が分かれている。売上高200億円超は増収増益で追い風の恩恵を享受し、200億円未満が増収減益、ことに10億円未満は赤字に落ち込んでいるのだ。この現象をどのように考えればいいのだろうか。詳細に分析すると、情報サービス業の構造に地殻変動的な変化が顕在化してきたことが浮き彫りになる。(佃均(ジャーナリスト)●取材/文)

決算からみえてくる業界の縮図

 前号と重複するようだが、まず集計値を紹介しておくと、221社合計の売上高は前年度比7.5%増の9兆2878億3300万円、本業の利益を示す営業利益は17.7%増の5028億1600万円、経常利益は17.3%増の5028億1600万円、純利益は3.2%減の2425億3700億円だった。売上原価は6.4%増の6兆4044億6900万円、販売管理費は7.5%増の1兆3726億2600万円だった。営業利益率は05年度より0.5ポイント増加したが、純利益率は0.3ポイント減って2.9%となり、再び3%を割り込んだ。

 営業利益、経常利益ともに17%台の高い伸びだったにもかかわらず、純利益が3%以上減少したのは、常識的に考えると特別損失が大きかったということになるのだが、TISやJBISホールディングスなどが事業再編に伴う損失を計上した以外、目立ったトピックはない。また不動産や有価債券の値下がりに伴う含み損も、ここにきての地価上昇や証券市場の動きから考えにくい。多くのアナリストが「?」と首をひねるのも無理からぬところだ。

■売上高規模で明暗

 全体でみると混沌としているが、売上高規模別に分けて集計すると、200億円を境に明暗がくっきり分かれている。例えば3000億円超(4社)では売上高が8.0%増、営業利益が56.9%増、経常利益が61.3%増、純利益が56.9%増と驚異的な業績回復を示している。売上高200億円超─300億円未満(18社)でも売上高は6.1%増、純利益は11.1%増だ。

 これに対して100億円超─200億円未満(38社)は売上高が8.9%増となったのに純利益は12.1%減、50億円超─100億円未満(32社)は売上高が14.4%増なのに純利益は31.6%減。さらに全体を見ると、売上高規模が小さくなるのにつれて、純利益の減少率が「12.1→31.6→42.4→赤字のため比較できず」と大きくなっている。

 同じことが売上原価と販売管理費の増減にもいえる。売上高3000億円超は売上原価が6.6%増、販売管理費が0.1%だが、10億円未満(18社)は38.4%増、51.3%増と大きく跳ね上がった。売上高規模が小さくなるのに従って、売上原価と販売管理費の伸び率が大きくなる。

 この結果を見たジャステックの神山茂社長(情報サービス産業協会副会長)は、

 「二極分化が進むとはみていたが、ここまでとは……」

 と絶句した。

 同社の06年度通期連結業績は売上高が14.9%増の132億8000万円、営業利益が7.3%減の14億7800万円、純利益が21.8%減の8億1800万円だった。固定資産売却損8億6600万円の特別損失を計上したのが減益の要因で、それがなければ純利益は16億円超、純利益率は8%を上回る。純利益率8%は業界トップクラスだ。ただし決算期が11月のため、今回の集計(3月期分)には含まれていない。

 「これはまるで強者と弱者、勝者と敗者の構図にみえる。規模の大きな会社が儲かり、小さな会社は利益なき繁忙に追い込まれるようでは、魅力ある業界にはならない」

 と、神山社長は嘆く。

■もはや企業モラル以前の問題

 なぜこのように強者と弱者の二極分化が明確になったのか。絵解きはこうだ。

 例えば、3000億円超の大手SIerがプライム受注し、1000億円規模、500億円規模の中堅SIerに再発注する。さらに300億円規模、200億円規模が下請けに入る。そこまではタテの関係で、それぞれに管理費などの名目でマージンを取ることができる。だから200億円超のSIerは受注量に応じて確実に利益が出る。

 ところが、200億円未満のSIerでは旧来の受発注関係が崩れている。タテ系列がヨコ系列に変わり、お互いに仕事と要員を融通し合っているのだ。背景には、労働者派遣法に抵触するのを嫌う大手・中堅が、外注の取引口座を絞り込んでいる事情がある。根本的には、上位クラスは請け負い型、下位クラスは要員派遣型というビジネスモデルの違いという課題がある。

 分かりやすくいうと、横並びの同業他社に10人分の仕事を出し、同規模の他社から10人分の仕事をもらうようなことが珍しくない。10人分の仕事があっちに行ったりこっちに来たりし、売り上げは増えても、利益は“行って帰って”でゼロ。ちょっとしたトラブルや手空きが発生すれば、利益は吹っ飛んでしまう。

 では、売上高が大きい会社が今後も安泰かといえば、そんなことはない。というのは下位の派遣型ソフト会社がへたったら、困るのは上位クラスだからだ。

 実際、「派遣法順守の原則に従っていては、新規案件を受注できない」「発注単価を見て、外注が他社の仕事に逃げてしまった」と悲鳴をあげる中堅SIerも出始めた。とはいえ、「それでも結構です」と仕事を引き受ける要員派遣型ソフト会社が次から次に売り込みにくる。最後に追い詰められるのは派遣されるIT技術者たちだ。

 「数字だけ見ると、要するに業界大手が中小・弱小に構造改革のツケを回しているだけではないか。受託というなら、外注に依存しないでやり遂げる体制を構築するのが当然。自分だけ先に利益を取って、下請けを叩くようなことが実際にあるとすれば、もはや企業モラル以前の問題」

 神山氏はこう憤慨する。この思いが業界全体の構造改革に結びつくかどうか。情報サービス産業協会の取引構造改革委員会に、大きな課題が託された。
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