IT経営コーディネート 企業活性化にITCの妙手

<「IT経営」コーディネート 企業活性化にITCの妙手>4.仙崎鐵工所編(下)

2007/06/11 16:18

週刊BCN 2007年06月11日vol.1190掲載

ITCは通訳、生産リード10%削減

 「当社とITベンダーとの通訳」──仙崎鐵工所の現システムの再構築を担当したITコーディネータ(ITC)、齋藤順一氏を沼りえ社長はこう評する。前システムでITベンダーと“会話”ができず悩んでいた沼社長は、ITCのありがたみを肌で感じている。2003年に同社にかかわった当時、齋藤氏は情報処理推進機構(IPA)の「ITソリューション・スクエア・プロジェクト(ITSSP)」への応募を仙崎鐵工所の沼社長に提案。沼社長の快諾を得て、翌年2月に計画書を提出。これが評価され、翌年6月に経済産業省の「IT活用型経営革新モデル事業」で補助金を得ることに成功した。

 この計画書を策定するまでの間、沼社長ら幹部と齋藤氏は膝詰めで議論した。「どういう会社になりたいのか、それを実現するITであり、使いこなせる仕組みにすること」と齋藤氏はアドバイス。まず、具体的には、生産管理でスタンダードな「MRP(資材所要量計画)」は不採用とした。しかし、「製缶工が不在になると、工程の進捗状況が分からない」(沼社長)という障害をなくす思いは強く、在庫、工程、発注、部材管理など、「仕掛かり情報」の共有化に力点を置く仕組みを構築した。

 実は、現システムへ移行する際、再構築を迫る外的要因があった。東芝の取引方法がウェブEDIに変更され、サーバーOSのサポートが切れたからである。計画書は、「結果として欲張りになり過ぎた」(沼社長)反省はあるものの、齋藤氏の助言を受け、自信のもてる内容に仕上がった。

 04年4月、この計画書を基に「RFP(提案計画書)」を策定。大手SIベンダー系列のSE子会社などITベンダー7社を選定。1社ごと齋藤氏が解説役となり説明会を開いた。「ITベンダーの言うことを、同席した沼社長にも分かりやすく説明した。経営者との相性も調べられた」(齋藤氏)と、通訳の役目を見事に果たしてきた。

 最終的には、日立情報システムズに発注することを決定。05年4月に稼働するまで8か月間、「50回以上、じっくり協議し詳細を決めた」と、日立情報システムズの梅津暢久・TENSUITE設計部第1グループ担当。現システムは、同社の製造業向け統合業務パッケージ「天成(昨年、「TENSUITE」に名称変更)」に見積もりや属性管理などのカスタマイズ機能を加えたソフトに日立製IAサーバーなど、約1800万円で完成した。

 齋藤氏は今回、「できる範囲は自分で開発した」。沼社長は「業績への効果は他の要因もあるので算出できない」というが、現システムの導入で、協力会社との情報共有にかかわる待ち時間が削減され、生産リードタイムが1年で10%減り、粗利益を高めることにつながったといえそうだ。

 ITに強い担当者が不在の企業を獲得する案件では、「プログラムベースで理解できるITCの存在は大きかった」(梅津氏)と、齋藤氏の功績を称える。「今では、沼社長と直に会話できる」(同)と、沼社長の“トラウマ”は徐々に沈静化しているようだ。(谷畑良胤●取材/文)
  • 1