ITジュニアの群像
第47回 北海道帯広工業高等学校
2007/05/14 20:45
週刊BCN 2007年05月14日vol.1186掲載
2つの大会に挑戦、全国大会で準優勝
ジュニアマイスターゴールドも授かる
苦い経験を翌年に生かす ミリ秒の理解が成長の証
松木将大さんは、電気科の3年生。全国工業高等学校長協会が主催する「高校生ものづくりコンテスト」には、2年生のときにも挑戦して、北海道大会で2位。惜しくも全国大会進出はならなかった。同コンテストの電子回路組立部門に出場する生徒の指導に当たっている、電子機械科の飯塚浩二教諭は、「松木君はハンダ付けがうまく、それで2年生で挑戦させてみたが、緊張もあったのか、本番ではうまくいかなかったようだ」と振り返る。
しかし、この経験は翌年への大きな布石となった。「次の大会ではまったく緊張せず、リラックスして臨むことができた」と松木さんは言う。「プログラミングのコツがわかってきたし、出題のパターンも予測できるようになった」とも。飯塚教諭によると、「プログラムを組む際、ループ回数のミリセック(ミリ秒)が理解できるようになり、正確な時間でプログラムを走らせることができるようになったのが成長の証」だとか。
こうして松木さんは、06年度「高校生ものづくりコンテスト」北海道大会で、電子回路組立部門の第1位を射止め、前年の雪辱を果たす。さらに、全国大会では準優勝を勝ち取ったのである。
これだけでも十分満足してよいはずの実績だが、同コンテストと並行して、松木さんは、中央職業能力開発協会主催、厚生労働省後援の「若年者ものづくり競技大会」の電子回路組立部門にも同時に挑戦していた。
この競技大会にも、松木さんは2年連続して、北海道地区代表として出場している。いずれも、「高校生ものづくりコンテスト」で優秀な成績を収めたことから、北海道職業能力開発協会から推薦を受けての出場である。とはいえ、3年生のときは、日程的にかなり厳しかったようだ。
地方のハンデは部品調達 技術屋の夢を生徒に託す
「6月に『高校生ものづくりコンテスト』の北海道大会が終わると、8月には『若年者ものづくり競技大会』。それが終わると今度は、11月に『高校生ものづくりコンテスト』の全国大会と、息つく暇もなく準備に追われた」と飯塚教諭。松木さんも、「準備期間がわずかしかなかったうえに、かなりレベルが高くて苦労した」と語る。
06年度が第2回目となる「若年者ものづくり競技大会」。その電子回路組立部門の課題は、赤外線センサーを使い、センサーの感応によって音階が変化する圧電ブザーを製作する、というもの。
飯塚教諭は、「部品を揃えるのがひと苦労だった。道内では、何しろ電子パーツが簡単には手に入らない」と嘆く。インターネットであちこち探し回り、間に合うように発送してくれる業者を運良く東京に見つけ、なんとか事なきを得たそうだ。地方都市で技術を学ぶことのハンデが、こうしたところにもみえる。
残念ながら、競技大会のほうは2年とも、松木さんの上位入賞は果たせなかった。ちなみに同校は、第1回大会の自動車整備部門で準優勝を射止めている。
こうした大会出場の合間を縫って、松木さんは3年生に課される課題研究もこなしてきた。課題研究では、8×8ドットのブロック3つを使って、電光掲示板を製作したそうだ。「班の仲間と作業を分担していたので、なんとか製作を間に合わせることができた」と言うが、かなり忙しい1年間だったようだ。しかも、高校の3年間で松木さんは、第二種電気工事士、2級ボイラー技師、第二級陸上特殊無線技士などの資格も取得しているのである。
まさに八面六臂の活躍の松木さんには、全国工業高等学校長協会ジュニアマイスター顕彰制度から、ジュニアマイスターゴールドが授与されている。なお、同校では06年度、ほかに2名がジュニアマイスターゴールドを、26名がジュニアマイスターシルバーを授与されており、エースの松木さんを筆頭に、多くの優秀な生徒が育っている。それだけ、優れた教育が実践されていることの証でもあろう。もちろん、教師たちも努力を惜しんではいない。飯塚教諭も産業技術センターで研究会に参加するなどして、技術者との交流を深め、常に新しい技術を学んできた。
その飯塚教諭は、「卒業していく生徒たちには、『技術屋になりたい』という気持ちを常に忘れずに研さんを続けて欲しいと伝えている」そうだ。その言葉に応えるかのように、松木さんはこの4月から、道内の工業大学に通う。将来、ハードもソフトも扱えるPC関連の技術者になることを目指して。
工業を担う人材を真摯に育てる 青木一明 校長
「本物志向のものづくりを身につけた、地域や社会の発展に貢献できる人材を育成すること。それが工業高校の使命」と、青木一明校長は語る。
農・水産業にしても、社会基盤整備にしても、いまや工業技術なしには成り立たない。「ものづくりを受け継ぐ人材を失ったら、日本の将来はない」と青木校長が言うように、工業高校の生徒たちは、“技術立国”日本の未来を支える貴重な存在なのだ。
青木校長によると、「他の地域では、普通科高校を志望する子どもたちが圧倒的に多いと思うが、十勝・帯広地区では、工業高校がブランドとして成り立っている。就職・進学ともほぼ100%、生徒たちの希望がかなう。だから、卒業生の2世、3世が入学してくるケースも少なくない」のだそうだ。
帯広といえば、国内屈指の酪農王国。そこで工業高校のステータスが高いのは、実際に、同校が優秀な人材を育てているからでもある。そのことは、「第6回高校生ものづくりコンテスト」北海道大会で、橋梁模型製作・電気工事・自動車整備・電子回路組立の4部門で3位内入賞。このうち、自動車整備部門と電子回路組立部門は1位を獲得して全国大会に進出していることでも明らかだ。
こうした実績を絶やすことのないよう、同校の生徒たちは、今日も「ものづくり」の研さんに励んでいる。
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