視点
携帯電話の枠組みが壊れる
2007/05/07 16:41
週刊BCN 2007年05月07日vol.1185掲載
震源は、Windows Mobile用に作られたPocketSkyView(以下、PSV)という書庫管理ツールだった。2月の終わり、青空文庫の掲示板に開発の報告があり、間もなくブログ検索で、これに関するコメントが引っかかりだした。
PSVが受け持つのは、青空文庫と表示ソフトとの、作品ファイルの受け渡しだ。手元の画面に表示されたリストから、作品を選んで受信を指示すると、ダウンロードが始まる。初期設定では圧縮されたテキスト版が引き落とされ、解凍、あらかじめ選んでおいたビューワーでの表示と、自動的に進む。
青空文庫のテキスト版を、縦組み、ルビ付きで表示するビューワーには、すでにWindows Mobileで使えるものも複数あった。ただこれまでは、ウェブブラウザ経由で保存して解凍、あらためてビューワーで開き直す手順が必要だった。その流れが自動化され、携帯に作る書棚の管理も容易になった。「空気のようなソフト」との利用者の評は、言い得て妙だ。青空文庫を常に傍らにあるものに変える最後の一コマを、この小さなソフトが埋めた。スマートフォンの利用者のかなりが、これをきっかけに青空文庫に親しみ始めた。
青空文庫という小さな空間で起こったこの出来事がほのめかすものは、さて、何だろう。私にはそれが、「携帯電話」という枠組みの崩壊の予兆に思える。かつて各メーカーが独自の世界にこもって機能拡張を進めたパソコンは、MS─DOSという過渡期を経て、やがて同じ土俵での競合へと転じた。携帯電話として誕生し、独自仕様での機能追加をメーカー自前で進めてきたこの機器も、ついに汎用OSへの転換期を迎えつつある。インターネットの資源を活用するうえで、利用者に生じるこまやかな要求に即したソフトが、誰でも利用できる開発環境を使って、自由に書かれる時代が来る。明日の携帯は、フリーズもすれば、ウイルスにもやられるだろう。そんな厄介事も抱え込みながら、このツールは、情報を空気のように取り込むうえで、必携の存在になっていく。
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