ITジュニアの群像
第45回 愛知県立岡崎工業高等学校
2007/04/23 20:45
週刊BCN 2007年04月23日vol.1184掲載
全国大会制覇に続き、上位入賞
ライバル校が注目する匠の技
見事なハンダ付けの技 ライバル校は釘付けに
「第6回高校生ものづくりコンテスト」全国大会で5位に入賞した情報技術科3年生の山本慎さんは、2年生の時に同コンテストでみごと全国優勝を果たしている。その時は、出場予定の3年生が突然、出場できなくなったため、山本さんに大役が回ってきた。
指導に当たった同科の栗田淳一教諭は、「まったく準備期間がなかったので、無理を強いることは分かっていましたが、彼のハンダ付けのうまさは校内でも群を抜いていましたから」と、山本さんに白羽の矢を立てた理由を語ってくれた。
中学生の頃に初めてハンダ付けを経験し、ものづくりの面白さに目覚めたという山本さん。コンテストへの出場が決まり、5月に行われる愛知県大会に間に合わせるため、わずか3週間で課題をマスターしたという。そして、県大会、東海地区大会をともに優勝で勝ち進み、ついには全国大会でも優勝をさらってしまう。これには、ライバル校も目を見張った。
2006年度は、「2年生で全国大会優勝を成し遂げた岡崎工業高校の山本君が、今年度も出場するらしい」という情報がいち早く強豪校の間を駆け巡り、コンテスト会場では、山本さんの周りをビデオカメラが取り囲む事態となった。彼のハンダ付けの技、オシロスコープの使い方などを研究して、多くの学校が課題制作の技術にさらに磨きをかけてきた。その結果、県大会2位、東海地区大会1位と善戦しながら、全国大会では、山本さんは5位に甘んじる結果に。
「ビデオに撮られていることは、それほど気にならなかった」と山本さんは言うが、栗田教諭は「少なからずプレッシャーになったのでは」と分析する。また、風邪で体調を崩してしまったことも、影響が大きかったようだ。
頼もしい2年生の存在 機械科にも優秀な生徒が
ところで、昨年度は同校からもう1人、2年生の佐々木住果さんもコンテストに出場している。県大会5位と、残念ながら上位進出はならなかったが、女子としてはすばらしい成績だ。自ら「出場したい」と栗田教諭に名乗り出たという佐々木さん。「先輩たちを見ていると楽しそうだし、自分でもできるんじゃないかと思いました」と出場の動機を語る。県大会後は、二足歩行ロボットの製作に打ち込み、同校がこの夏に計画している小・中学生向けの「ものづくり教室」でも、中心的役割を担う生徒の1人となっている。
栗田教諭のもとには、山本さんや佐々木さんのように、授業やクラブ活動とは別に、生徒たちが集まってきて、熱心に技術向上に取り組んでいる。いわば栗田門下生といった感じなのだが、特筆すべきは、生徒たちが自発的にそうしているということだ。そこには、ものづくりへの若い情熱が満ち満ちている。「彼らの思いに応えるべく、私も老骨にむち打っています」と語る栗田教諭は、実に嬉しそうだ。
同校は昨年度、機械科でも栄冠を勝ち取っている。中央職業能力開発協会が主催する06年度の「第2回若年者ものづくり競技大会」において、機械製図CADで2連覇を達成。また、フライス盤でも準優勝を飾った。
機械製図CADで優勝し、厚生労働大臣賞を受賞した機械科3年生の高見領太郎さんは、剣道部のキャプテンを務めるスポーツマン。「大会そのものよりも、練習期間のほうがつらかったです。でも、大会を経験して、CADが俄然面白くなりました」と語る。フライス盤準優勝の同科3年生、小高竜太さんは、ハンドボール部のキャプテン。「準備期間が3週間しかなく、練習では失敗ばかり。でも、本番ではうまくいきました」と大会を振り返る。当初8時間かかっていた作業を、練習を重ねて3時間まで短縮できたそうだ。2人を指導した同科の佐藤泰嗣教諭と権藤清志教諭は、「彼ら自身の頑張りの成果です。できることなら、生徒たち全員にこうした大会への出場機会を与えてやりたい」と口を揃える。
資格を取る、競技大会に出場するといったことが確実に自信につながり、そこから自分の可能性を信じる気持ちが生まれてくる。岡崎工業高校の生徒たちの姿を目の当たりにすると、そのことがよく分かる。技術者を目指す高校生たちにとって、何ものにも替え難い経験となる機会をつくり出す取り組みを、産業界としても続けていく必要があるのではないか、と考えさせられた。
ものづくりの楽しさを育む機会を 市川繁富校長
昨年、創立95周年を迎えた岡崎工業高校は、愛知県下で屈指の歴史を誇る工業高校である。自動車産業が盛んな西三河地区にあって、「ものづくり教育」の中核を担う高等学校として、さまざまな取り組みを展開している。
例えば、技能の継承もそのひとつ。全国的にみても高度熟練技術者が多い地区という地の利を生かして、地元の技術者に来校してもらい、生徒たちの目の前で匠の技を披露してもらう。あわせて、装置や工具の扱い方などのノウハウを指導してもらう機会を設けている。その成果は、05年度に、高校生としては全国で初めてとなる旋盤2級の技能士を10名も誕生させるなどの実績に結びついている。
また、「リモコン制御の二足歩行ミニロボットをつくっており、今年の夏休みには、小・中学校の生徒を本校に招いて、遊びながらロボットの機械的構造やリモコンの通信機能などについて学んでもらえる教室を開講する予定」と市川繁富校長は語る。小・中学生を対象とするのは、「ものづくりの面白さを幼い頃から知ってもらうことが、豊かな感性と創造力を持った技術者を育てることになる」との考えがあるからだ。
いまこそ産学官が総力をあげて、子供たちにものづくりの楽しさ伝えていかなければ、日本の将来を支える優秀な技術者は育成できないということを、同校の取り組みは改めて教えてくれる。
|
- 1