視点

著作権保護期間で考慮すべき問題

2007/04/16 16:41

週刊BCN 2007年04月16日vol.1183掲載

 著作権の保護期間を現在の50年から70年に延長するかどうかの議論が起こっている。私は「著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム」の発起人であり、このたび、この問題を審議する文化審議会著作権分科会の「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」の委員にも就任した。

 延長派と慎重派のそれぞれの主張は、前述したフォーラムのサイト(http: //thinkcopy right.org/)に詳しい。具体的にはこちらを参照していただきたいが、主張のなかには、保護期間の延長・短縮とは別の策によって解決すべき課題と思われるものも含まれている。例えば、延長されれば「視聴覚障害者向けや教育研究目的での利用」が制約されるという主張があるが、これはむしろ制限規定を改正することによって解決を図るべき種類の問題であろう。

 では、IT関連の業界にとって保護期間の延長問題は、どう捉えるべきなのだろうか。

 まず、ビジネスソフトについては、現在の50年でも十分に長いように思える。たとえ保護期間が切れたとしても、その頃には動作するプラットフォームがないだろう。プログラムのカーネルなどごく一部の保護が切れることも考えられるが、その影響は現実的に議論するレベルなのだろうか。一方、ゲームソフトは、映画の著作物に該当する場合には現在も公表後70年の保護期間が設けられている。また、ビジネスソフトと同様、50年経てば、ゲーム機自体が存在しない可能性も高い。むしろ、音楽や写真などを利用する側面からは、保護期間は短いほうがいいかもしれない。

 ACCSは、著作権法で保護される著作物を生み出すクリエイターの団体であると同時に、新しい著作物を生み出すために他の著作物を利用するユーザーの団体という側面も強く、単純に延長派、慎重派と区分できない立ち位置にある。

いずれにしてもこの問題は、情報流通の仕組みや、文化的な面、経済的な影響などを勘案しながら慎重に議論する必要がある。そのため、半年間程度の審議で拙速に結論を出すべきではないと考えている。

 むしろ、保護期間の問題をきっかけにして現在の著作権法が抱える問題全般について議論を深める機会と捉え、国民的な関心を高めていくことが望ましいと思う。さらに、その議論の過程で、われわれのような現場の活動への理解が促進されることも期待している。
 
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕
久保田 裕(くぼた ゆたか)
 1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。
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