ITジュニアの群像
第34回 長野工業高等専門学校
2007/01/29 20:45
週刊BCN 2007年01月29日vol.1172掲載
本選出場、連続17回の強豪校
課題部門でワンツーフィニッシュ
ICタグとPDAを使った、アウトドア型の探索ゲーム
優秀賞を獲得した5年生チームの作品は、「発掘!恐竜大事典」という無線ICタグを使った探索ゲーム。恐竜データが入ったSDカードを化石探知機のPDAに差し込み、無線ICタグが埋め込まれた恐竜の化石を発掘して遊ぶ。このチームは電子制御工学科の鈴木宏助教授の研究室メンバーが主体で、うち3人は前年も課題部門に出場して審査員特別賞を受賞している。その“資産”が無線ICタグとPDAで、昨年つかんだノウハウを生かせば2年目の今回はもっといい作品ができると確信していたようだ。
「子供たちが喜ぶ遊びを無線ICタグで実現しよう」「だったら宝探しかな」「甲虫王者ムシキングのようなキャラクターがほしいね」「それなら恐竜の化石でいこう」。ざっと、こんな流れでテーマがまとまった。この作品は、実際に遊ぶ子供たちに加えて、遊びの主催者側という視点を重視した点に特長があり、SDカードに組み込む化石製造ソフトはどんなキャラクターにも応用できるという広がりを持っている。また、恐竜の化石を探すというアウトドアの観点に、オリジナルの恐竜大事典を完成させる(事典に登録する)という収集の楽しみを加味した、ゲームの王道といっていい手堅い作品でもある。
ハードを内堀拓哉さんと須澤隆行さんがつくり、プログラムを大島直樹さんと碓氷紘規さんが書き、奥原健太郎さんがプレゼンを担当した。鈴木先生の感想は、「ハードウェアの要素が大きくプログラムのウェイトがやや小さい」というもので、これを補うために夏休み明けに大幅な仕様変更を行ったが、思ったような形にならず元の仕様に戻すという一幕もあったそうだ。
コンセプトを実現させた最後の5日間の作り込み
さて、最優秀賞を獲得したもう1チームは3年生だけの「しゃぼん玉とばそ」チーム。高専で学んだことを形にして残したいと奮起した石飛太一さんの呼びかけに、電子情報工学科3年の柴田晃佐さん、小林遼さん、竹内裕哉さん、山田英史さんが応じた。3年生だけでチームを構成したのは同校でも初めてのことだという。指導教員の伊藤祥一助手は同校OBで、在校時にはプロコン自由部門で審査員特別賞を受賞している。
プロジェクトのスタートに当たって伊藤先生が送ったアドバイスは、実際の子供の遊びを広い視点でとらえること。メンバーはさっそくトイザらスや長野少年科学センターに出向き、子供がどんな遊びをどう楽しむかをリサーチ。その結果、触ったら割れて音を出すしゃぼん玉をコンピュータ上で実現しようということで一致した。このとき、自分たちの技術の持ち合わせを問題にせず、どうやったら面白い遊びになるかというコンセプトにこだわった。つまり、「大風呂敷を広げるだけ広げたようなものだった」(伊藤先生)。
石飛さんがUSB接続のストロー型コントローラーを考案し、竹内さんがその数値をもとにディスプレイ上に3Dのしゃぼん玉を表現し、小林さんは背景を描いた。GUIを山田さんがつくり、マニュアル制作やプレゼンは柴田さんが担当した。触ったら割れる仕組みは、たまたま学校にあったタッチパネルのディスプレイを使ったが、3Dでつくられたしゃぼん玉を2D画面で割るための「当たり判定」が難しく、座標変換にもっとも苦労したそうである。
長野高専ではプロコンの直前に学内で発表会を開く。その時点で3年生チームは、割れたら出るはずの音も出なければ、背景画面も差し替えられず、作品の完成を危ぶんだ5年生たちが、余裕で敵に塩(アドバイス)を送ったそうだ。 大会当日、その5年生チームは昨年を上回る成績を収めて大いに喜んだが、最後に最優秀賞の発表を聞いて唖然とした。「しゃぼん玉とばそ」チームはたった5日間で残された課題をクリアし、完成度の高い作品に仕上げて「発掘!恐竜大事典」を鮮やかに逆転したのだった。
実践的教育機会を最大限生かす 堀内征治副校長
長野高専は実践的教育としてのインターンシップの充実で知られ、本科生は4年次に2週間、専攻科では他校に例を見ない15週間のインターンシップ(必修)を設けている。2004年度には「人材交流による産学連携教育」をテーマとする取り組みで、文科省支援の現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)に、高専としてただ1校採択された。
また、同校の地域テクノセンターでは企業の技術者に交じって学生が研修を受け、研究発表することも多く、地元で研修を引き受けてくれる企業数は引きも切らない。そうした背景から、就職する卒業生の半数は県内にとどまる。 同校にとっては、プロコンもまた実践的な教育機会であり、チャレンジする学生をサポートするために校内で発表会を開き、プロジェクトの進行状況をチェックするとともに、指導教員以外の先生からもアドバイスを受けられる機会を設けている。また、どちらかというと課題部門を重視する傾向にある。
プロコン創設者の1人でもある堀内副校長は、「自由部門では才能豊かな個人が1人でチームをけん引することもあるが、課題部門は異なったセンスを持つ何人かが共同で1つのテーマに取り組む。限られた時間で成果を求められるのが企業のプロジェクトに似ており、在学中にそうした機会に触れてほしい」と願っている。
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