視点

メカトロソフトの時代に向けて

2007/01/15 16:41

週刊BCN 2007年01月15日vol.1170掲載

 このところ「モノづくり」という言葉に触れる機会が多くなった。昨今、発展途上国に生産拠点を奪われて、先行きが心配なわが国の製造業の姿が、その背景にあるようだ。

 モノづくりの歴史は機械をつくることから始まった。人々は工夫を重ねてより便利な機械を多数生み出してきた。それは「メカ」の黄金時代であった。

 やがてメカにエレクトロニクスが加わり、モノづくりは新たな時代に入った。メカだけでは実現できない新しいモノがつぎつぎと開発された。「メカトロニクス」あるいは略して「メカトロ」という語も生まれた。メカトロの時代はハードが主流であり、日本の製造業が得意とする分野となった。

 メカトロにマイクロコンピュータが加わると、モノが提供する機能やサービスはますます高度化と複雑化が進み、小型化と低価格化も可能になった。マイクロコンピュータにはそれを動かすプログラムが必要であり、これは総称して組み込みソフトと呼ばれている。メカトロにソフトが加わったことになるので、これを「メカトロソフト」と呼ぶことにしよう。

 日本のソフト産業は国際競争力がない。世界に通用する製品がつくれない理由のひとつは、ソフト教育の貧困による技術力の低さであろう。

 ソフトだけで国際市場を相手にできないなら、ソフトに得意分野のメカトロを付加したメカトロソフト製品の開発にもっと力を注ぐべきである。この領域なら海外のソフト企業も簡単には追随できないだろう。そうした製品を開発する際、メカには設計図、エレクトロニクスには回路図があるが、組み込みソフトにはそれらに相当するものがない。このことが組み込みソフトの立場を弱くしているとともに、その生産性と品質の低下を招く要因にもなっている。

 メカトロソフト製品の開発では、伝統のあるメカトロ技術者が主導権を握ることが多く、ソフトは従であるという考えが支配している。しかし、ソフトの役割と影響が大きくなった現在、メカトロとソフトは対等あるいはソフト主導で開発を進めるのが望ましい。そのためには、メカトロの技術も学んだ優れた組み込みソフト技術者を育成する、組み込みソフトの開発にもメカトロの設計図や回路図のようなものに基づいた合理的な方法を導入する、といった対策が必要である。 それが実現すれば、やがてわが国がメカトロソフトの分野で世界のリーダーになれる時代が到来するだろう。
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