ITジュニアの群像
第32回 新居浜工業高等専門学校
2007/01/15 20:45
週刊BCN 2007年01月15日vol.1170掲載
本選で胸を張れる作品を
ブログの新たな可能性を開く
新居浜高専がプロコンの自由・課題部門への参戦を決意したのは、プロコン第15回大会を新居浜高専で行うことになったことが大きなきっかけだ。それまでプロコンには競技部門のみの参加であった同校だが、「開催校となるからには全種目参加を実現したい。そこでその前年の第14回大会から自由・課題両部門にも参加することになった」(電子制御工学科・占部弘治助手)のが最初だ。その結果は両部門ともに敢闘賞ということで、まずは上々のスタートとなった。
プロコンへの参加については「まず本選の場に学生たちが自信を持って置けるような作品を作りたいという気持ちがすべての基本。上位入賞に越したことはないが、まず本選の場で胸を張ってプレゼン・デモンストレーションできる作品を出したい」(占部助手)が最大の願いだという。
ブログを3次元宇宙に見立て、自由に行き来する仮想環境
しかし自信作の完成はなかなか難しい。今回の審査委員特別賞受賞作「Blog☆Stars」についても実は全く自信はなかった様子で、「受賞を聞いて驚いた」というのが正直な気持ちだったようだ。しかし、今やネットユーザーに定着したブログの世界を新たに押し広げる独自の発想については、同校ならではのテーマとして熱い想いがあったことは事実だ。
「従来のブログとは、Web上で実現できることを『より簡単に』するもので、新たな世界を実現してはいない。そこで、各ブログが存在する空間を3次元宇宙として自由に行き来できるブログ環境を提供する」(電子制御工学科5年・弓山彬さん)というのが「Blog☆Stars」の発想となった。
「Blog☆Stars」が3次元CGにこだわるのは「ブログからブログへ移動する楽しさを味わうには3次元空間における仮想体験が不可欠」(電子制御工学科4年・徳永匠さん)との判断によるものだ。今やRPGなどで3次元CGの活用は珍しくないが「それらは独自の3次元世界を提供するだけで、ブログなど継続的なコミュニケーションを目的とした3次元CGの活用ではない」(徳永さん)との観点から、あくまでコミュニケーションの手段として3次元CGの利用にこだわった。
3次元CGによるコミュニケーションには、専用ブラウザを必要とする。サーバーに接続すると3次元空間に宇宙と星が現れ、ユーザーはそのなかを自由に移動できる。また既存のブログが持つアクセスの容易性を維持するために、一般のWebブラウザからもアクセスできる。つまり「専用ブラウザでアクセスしたときに見せる顔と、通常のWebブラウザでアクセスしたときに見せる顔という、2つの顔を持つことによって、開かれたコミュニティを実現する」(電子制御工学科4年・高橋克弥さん)ことが可能になる。
情報伝達の醍醐味と難しさの両面を実感
開発の分担は、Linuxの経験のある弓山さんがサーバー系を担当、徳永さん、高橋さん、鈴木さんの3人がクライアント系を担当した。
3人はDirectXについては初めての体験だったが「昨年のプロコンで開発したプログラムの雛形を参考に」(電子制御工学科4年・鈴木達哉さん)するなど、過去の資産活用も大きな戦力となった。3次元CGの開発については「プログラム開発という要素に加えて、現実に画像として表現するための絵心が不可欠であることを痛感した」(鈴木さん)とのことで、テキストに片寄らないコミュニケーションの醍醐味を堪能するとともに、難しさも実感することになった。
今回の受賞メンバーは全員がプロコン体験者で構成されていることが特徴だ。徳永さん、高橋さん、鈴木さんのクライアント担当3名がプログラム開発に最大の関心を持つのに対して、今回、リーダー役を果たした弓山さんは、プログラム開発だけでなくハンダゴテを握るのも大好きなハードファンでもあり、プロコン以外にもソーラーボートコンテスト、琵琶湖の鳥人間コンテストに参加するなど多彩な面を併せ持つ行動派だ。「Blog☆Stars」は、仮想3次元空間でのブログコミュニケーションという「夢がどこまでも広がる世界」(弓山さん)だけに、各メンバーの夢も大きく膨らんだことは想像に難くない。しかしプロコンという具体的な発表の場を得たことで、夢が一つの現実として日の目を見たともいえる。
ブログが集まる宇宙を旅しながらコミュニケーションを楽しむという、経験したことのない人にはなかなか理解し難い世界を提案し現実のものとして、ブログの新たな可能性を開いた意義は大きい。 「本選の場で堂々と紹介できる自身作」を目指すだけに、次のテーマが期待される。
「地場」を意識し学科を独自構成 水野 豊校長
愛媛県の東地区、一般に東予と呼ばれる地域の中央に位置する新居浜市は、古くは元禄年間にさかのぼる別子銅山を足掛かりに、非鉄金属・産業機械・化学工業など製造業を中心とする瀬戸内海有数の工業都市として知られる。ここに立地する新居浜高専は、機械工学科、電気情報工学科、電子制御工学科、生物応用科学科、材料工学科と、地場産業を反映した独自の学科構成で、「知恵、行動力、信頼」を教育理念とする。
同校の特色は地元からの信頼が厚いこと。「平家落人伝説の里の案内ロボットを作れないか」など、モノづくりに関するさまざまな要望が寄せられる。「四国はタヌキが有名なので、子女郎タヌキロボットを数体作って動かしてみた」(水野豊校長)ところ、市民から人気者になるなど、地域の活性化にも大きな役割を果たしている。
地場産業界との連携についても積極的で「地域連携プロジェクト型ものづくり活動─工都新居浜の活性化プラン─」が文部科学省の現代GPに採択された。また学校を対象にしたものづくりコンテストを積極的に実施するなど、さまざまな形で「ものづくりの成果を発表し合う機会」をつくっている。 今後は「学内での異学年交流を活発化する」ことが重要であるとして、プロコンなどの全国大会に加えて、「地域との連携プロジェクトの中で異学年が交流できるような運営」を目指している。
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