ITジュニアの群像
第29回 小山工業高等専門学校
2006/12/18 20:45
週刊BCN 2006年12月18日vol.1167掲載
課題部門で3年連続の入賞
後輩の育成が来年の成績を決する
玩具のブロックに着目 ITで遊びの幅が広がる
高専プロコン課題部門で審査員特別賞を勝ち取ったのはブロックの組み合わせによって音楽の再生や発光の仕方が変わる「みゅ~びっく」。課題部門の今年のテーマである「子供心とコンピュータ」に沿って、ITを活用したハイテク玩具に仕上げた。操作が簡単で小学校にあがる前の幼児でも楽しく遊べるのが売りだ。
子供がブロックで遊ぶのを見て「ITを使えばもっとおもしろいブロックができる」(課題部門出場チームのリーダーを務めた電気情報工学科5年生の椎名誠さん)とハイテクブロックのアイデアを思いついた。
コンピュータのインターフェースの中心はキーボードとマウス。ブロックをコンピュータのインターフェースに用いればキーボードがまだ使えない幼児でも遊べる。音楽や光と連動させることで遊びの幅がさらに広がる。
問題はそのアイデアをどう実現するかだ。複数のブロックがどのような状態で組み合わさっているのかをコンピュータで認識できなければ、組み合わせと連動した音楽や光は発せられない。またブロックの位置を認識するソフトウェアをゼロからつくっていては10月の大会までに間に合わない。
そこでたどり着いたのがLANの機構だ。LANは個々の接続端末に固有の番号である「IPアドレス」を自動的に割り振る機能がある。ブロックの接続順にIPアドレスを割り振ることで組み合わされたブロック全体のおおまかな形がつかめる。普段から使い慣れているLAN技術であればメンバー全員の習熟度が高く、汎用的なハードウェアも多数市販されている。大会までの少ない残り日数でも間に合う。
LANをベースに設計 競技部門の開発も進む
LANをベースとしたアーキテクチャに固まったのは今年5月。実際にブロックができあがったのは夏休み明けだった。夏休み期間中は、朝9時から夜8─9時まで作業に没頭する毎日だった。
プロコン用の作品づくりは「学生たちの自主性に任せている」と言い切る担当教員の石原学・電気情報工学科助教授も、作業には終日つき合った。
最も苦心したのはハードウェアとソフトウェアの整合性だ。システム全体を制御するのはパソコンなどで使われるC系のプログラム言語。ブロックに内蔵するハードウェアを制御するのはマイコンなどに組み込むアセンブラ言語を使った。
異なる言語体系を1つのシステムにすりあわせていくのに時間がとられたと、活動状況を振り返る。
一方、コンピュータを使って直接対決するゲーム形式の競技部門では、電子制御工学科5年生の小泉和也さんがリーダーとなって参加した。競技時間の厳しい制限が課されるなかでゲームに勝つためには、正確・迅速な解答を導き出す計算式をプログラミングしなければならない。敵がどう動くのか、先を読みすぎると処理時間が長くなり、逆に先を読まないと予測精度に欠けて負けてしまう。
精度とスピードの最適なバランスをどこに置くのかで議論が紛糾。ゲームのルールに沿い「チームのメンバー同士で実際に対戦しながらアルゴリズムを固めた」(小泉和也さん)と検証を通じて最適化の作業を進めた。大会では惜しくも3位内の入賞は果たせなかったが、技術力が認められて特別賞を獲得した。
プロコンへの参加を通じて課題も残った。これまで2─5年生までバランスよくメンバーを揃えることで、「ノウハウを次年度に引き継げるよう心がけてきた」(電子制御工学科の南斉清巳・助教授)。しかし今回はメンバーが揃わず課題、競技部門ともに全員が来年春に卒業予定の5年生のみになった。卒業までの残された時間で今年の入賞経験をどう後輩に伝えるかが、来年の成績を大きく左右しそうだ。
グローバルで通用する人材を 藤本光宏校長
農学博士でもある小山高専の藤本光宏校長は農業と工業の比較を試みる。
国内の農耕地は狭く、土地の値段も高い。放っておいたら日本の農業は廃れてしまう。それでも日本は品種改良などたゆまぬ努力を続け、世界で活躍できる人材を輩出してきた。
工業でも少子高齢化や中国などの著しい発展など、環境変化が起こっている。成功体験は未来の成功を約束するものではない。「農業や工業を問わずグローバルで通用する人材育成こそが成長を持続させるカギ」と考える。
技術の進歩や移り変わりは著しい。すべての技術を余すところなく頭の中に入れるなどとてもできない。「必要な時に学び取れる柔軟性や応用力を身につけてほしい」と学生に説く。こうした感性の研ぎ澄ましこそが、時代を乗り越える力になる。
現在、同校では中国の大学との提携を検討している。工業化が目覚しく進展する中国は、「学生の若い感性を刺激する要素は十分にある」と国際交流の推進に取り組む。小山高専には中国出身の教員が3人在籍しており、留学生も多い。
教育機関として社会の要請に応える責任がある。だが、「要請は何も国内だけにあるわけではない。グローバルで求められる人材の育成を追求していきたい」と抱負を語る。
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