視点

電子本を黙らせるのは誰だ

2006/11/06 16:41

週刊BCN 2006年11月06日vol.1161掲載

 基幹通信ソフト開発のアルファシステムズが、個人ユーザーを対象に、今年7月から「電子かたりべ」と名付けた読み上げソフトの提供を始めた。売りものは、音声の質だ。試してみると、確かになめらかで自然に耳に響く。その「電子かたりべ」が、10月、ボイジャーのビュワー「T─Time」と組み、これで開けるドットブック形式の電子本が、音声化できるようになった。

 読み上げシステムは、もちろん従来からもある。視覚障碍者は、これを頼りにパソコンを使いこなし、インターネットを利用してきた。テキストやHTMLといった「開かれた」形式のファイルなら、これで音声化できていた。だが、市販されている電子本の多くは、中味を抜き出して容易にコピーできないよう、テキストをビンに詰め、固くふたをしめたような構造をとっている。この壁を乗り越えて、新しい、今の作品も聞けるようにと狙うのが、今回の提携だ。

 無料の「T─Time」に加えて、年間使用料3000円の「電子かたりべ」をインストールしたWindows環境で、まずドットブックを開く。ここでキーボードのF5を押すと、読み上げが始まる。ビュワー上では、その時点で読まれている段落が、ハイライトされる。聞くしかない人に加え、聞きながらの人も、聞いたり読んだりのケースもよさそうだ。

 ところが、ドットブックを採用している出版社のかなり多くが、今回の読み上げに背を向けた。同意していない版元のドットブックは、せっかくの音声化のメリットを生かせない。新しい機能について著者に説明し、納得してもらうことへの負担感、朗読商品とぶつからないかとの心配が、腰が引ける背景にはあるらしい。

 「ページの上に文字を並べたものこそが本で、われわれはそれを売っている。電子化する際もただ、その形を画面でなぞればいい。本も自分たちも、変わる必要などない」といった気分が、読み上げ忌避の根っこには見え隠れする。

 だがそれでも、電子化は本に、「書き言葉の器」としての再定義を迫り続けるだろう。目の見える人は、そこから中味を文字の形で取り出して読む。見えない人は、音声で。見えにくいなら、極端に大きな文字か、音声との併用か。

 電子本という新しい革袋は、可能性の開花を求める。その「新しさ」が、古い革袋への固執に阻まれて今、軋みをたてている。
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