ITジュニアの群像
プロコン国際化に広がり 中国も初参加
2006/10/30 20:45
週刊BCN 2006年10月30日vol.1160掲載
大連東軟情報技術職業学院
課題、競技部門で活躍 交流通じて技術や文化を学ぶ
西遊記の世界をゲームと動くジオラマで表現
プロコンに海外の学生が本格的に参加し始めたのは2004年の第15回大会からだ。このときはベトナムの学生のみの参加だったが、翌年にはモンゴルの学生、今年の第17回大会では大連東軟情報技術職業学院(東軟情報学院)の学生が新たに加わった。
今回はベトナム、モンゴル、中国と海外から過去最多の3か国、5チームが参加し、全国の高等専門学校生との交流を通じて互いの技術や文化を学んだ。
初出場の東軟情報学院からは課題部門と競技部門に1チームずつ参加。課題部門には「西遊記」をモチーフとした作品「ディスカバリー」を出展した。課題である「子供心とコンピュータ」に沿うよう、子供向けのコンピュータゲームと、このゲームと連動する精巧なジオラマを制作し、会場の注目を集めた。
ジオラマは火山や岩山、汽車、孫悟空などから構成され、コンピュータ上のゲームの主人公であるサルたちが山野を冒険するというストーリー。バーチャルなコンピュータゲームの進捗状況に合わせて実物模型である汽車や孫悟空の人形が動く仕組みだ。コンピュータゲームと実物模型の動作は無線で同期をとる。
このアイデアを発想した東軟情報学院コンピュータ科学技術学部3年生の牛佳佳さんは「コンピュータ上のゲームと実物を同期させる無線連動の装置の制作に苦労した」と振り返る。牛さんは中国の古都・洛陽市の出身。幼い頃から古典文学が好きで、とりわけ西遊記が気に入っていることから今回のモチーフに採り入れた。
課題部門の指導を担当した東軟情報学院の郭権・コンピュータ科学技術学部主任補佐は「発案から設計、制作に至るまで学生たちが自主的に行った」と、プロコン参加にかけた学生たちの意欲をたたえる。
海外チームの招待を支援している有志団体「プロコンの国際化を支援する会」に今年から加わった東芝ソリューションの落合正雄・統括技師長技術企画部部長は「コンピュータソフトとハードウェア、デザイン、脚本などを見事にインテグレーションした」とバーチャルなゲーム世界とリアルのジオラマ世界の融合技術を高く評価する。一方で「ジオラマを操作することでコンピュータ上のゲーム世界に変化が起きる逆方向の連動があったらもっとすばらしい」と注文をつける。
牛さんとチームを組んだ同・鄒家輝さんは、「バーチャルとリアルが双方から影響し合うアイデアもあったが、今回は時間が足りずに実現できなかった」と少し悔しそう。コンピュータソフトからジオラマへの一方通行のみの完成となったが、高度な技術を駆使していることから「ディスカバリー」は今大会で技術賞を獲得した。
開発過程で処理速度を60分の1にまで短縮
競技部門には作品名「バイナリークリーナー」を制作して臨んだ。全国高専や他の海外チームなど強豪がひしめくなかで国際交流賞を受賞した。
直接対決方式の競技部門用に開発したソフトウェア「バイナリークリーナー」は当初、「処理速度が上がらずに苦労した」(競技部門に参加した東軟情報学院コンピュータ科学技術学部3年生の陳一夢さん)という。競技で勝つためには相手の出方を瞬時に予測して先手を打つアルゴリズムが求められる。しかし、先を読みすぎるとソフトウェアの処理速度が低下して逆に不利になる。予測の正確さとスピードの両立が欠かせない。
2か月余りの準備期間のうち1か月余りが経過した時点で、陳さんとチームを組んだ同・蘇さんがある専門書から有用なゲーム理論を見つけ出した。「そのまま使えるものではなかったが、開発のヒントになって従来60秒ほどかかっていた処理を1秒以下に短縮」させることに成功した。
競技部門の指導を担当した東軟情報学院の李緒成・コンピュータ科学技術学部講師は、「課題部門、競技部門ともに自力でよく研究した。東軟情報学院の代表チームとして恥じない作品に仕上がった」と評価する。
来年も東軟情報学院からプロコン参加チームが出てくることに早くも期待が集まっている。
自ら中国を訪ねてプロコン参加を要請
プロコンに出てほしい──。今年6月10日、東芝ソリューションの真木明常務は自ら中国大連の東軟情報学院を訪ねてプロコン参加を要請した。東軟情報学院は中国・東北大学の教師らが中心となって設立したソフト開発会社ニューソフトが後ろ盾となって創設した高等教育機関である。主にIT分野の人材育成を手がけており現在1万1000名ほどの学生が学ぶ。中国有数の実力校として名声が高い。
東芝グループとニューソフトはここ10年来の協力関係にあり、かねてから真木常務はニューソフトの人材育成への取り組みを評価してきた。「国内ではIT業界の人材不足が深刻化している。当社として何かできることはないか」と考え、高専プロコンの国際化に協力することにした。
要請を受けた東軟情報学院はプロコン参加を快諾。学内に呼びかけたところ海外で実力を試したいという熱心な学生が40人余り手を挙げた。選考で最終的に2チーム、4人に絞り込んだ。この時点でプロコン本選まで2か月余りにまで迫っており、限られた時間の中で選抜チームは夏休み返上で制作に没頭した。
真木常務は「海外の学生が参加することで高専の学生が刺激を受け、さらにレベルの高いプロコンになる」ことを期待。「国際交流は長く続けていくことが大切」だとして来年以降もプロコンの国際化支援を続けていく意向を示している。
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