ITジュニアの群像
第20回 鈴鹿工業高等専門学校
2006/10/16 20:45
週刊BCN 2006年10月16日vol.1158掲載
過去最多の4チームが本選出場
自由部門で異例の2チーム出場を果たす
音楽好きや機械遊び好きが、チームを組んで予選突破
今年の高専プロコン本選は鈴鹿高専としては過去最多の4チームで臨んだ。予選には1校あたりの応募枠をフルに使った5チームで挑戦した。自由部門では2チームが予選通過。課題部門は惜しくも1チームが落選したが、1チームが本選出場を果たした。競技部門ではマイクロソフト主催の世界的なプログラミングコンテスト「イマジンカップ2006インド世界大会」で決勝戦進出を果たした実力者がメンバーに加わった。
自由部門の作品は音楽好きの5人のメンバーがつくった「指揮者体験プログラム奏(かなで)気軽に指揮者気分♪」で、カメラの前で指揮棒を振ると、それに合わせて音楽が演奏されるというもの。「指揮棒の動作と音楽を連動させるプログラミング開発に最も苦労した」(チーム代表で電子情報工学科4年生の小田有城さん)そうだ。
もうひとつの自由部門の作品は「ルーブ・ゴールドバーグマシン・ビルダー」で、ルーブ・ゴールドバーグマシンをコンピュータ上で正確に再現するというもの。同マシンは〝簡単にできることを故意に複雑な機械を使って行う〟もので、複数の機械を連鎖的に動かすのを楽しむ遊びだ。人気アニメ「トムとジェリー」でもたびたび登場しており、国内外で専門のコンテストが開かれているほどだ。
チーム代表で電子情報工学科4年生の高橋勲さんは、「物理法則に準じたバーチャルな三次元空間で実物と同じように機械を組み立て、その動作を精密に再現するのに多大な労力を費やした」と振り返る。開発に当たっては現実世界で実際にルーブ・ゴールドバーグマシンの一部をつくり、ソフトウェアで現実と同じ動きができるよう調整を繰り返した。
課題部門には子供向けのミニゲーム集「ふれあいスクウェア」を出品した。“子供心とコンピュータ”という今年のテーマに沿ったもので、子供向けコンピュータゲームを光や温度、傾きなどを測定できるセンサーを使って操作できるようにした。
可動式のディスプレイモニタに傾きや光、温度センサーを取りつけることで、モニタを動かしたり、懐中電灯の光やドライヤーの熱などを使ってゲームを楽しむ。「指先や小道具を使ってゲームをプレイできるようにした」とチーム代表で電子情報工学科4年の矢橋春希さんは独自性を打ち出したことに自信をみせる。
競技部門は「イマジンカップ」日本代表チームに参加した電子情報工学科3年生の大居司さんが率いるチームで予選に臨んだ。実力派として期待は大きいが、「プレッシャーは感じていない」(大居さん)と余裕をみせている。
低学年から参加できる体制で、チャレンジ精神を磨かせる
本選出場を果たした4チームの合計人数は18人。多くの学生が集まったのには指導教員の並々ならぬ支援があったからこそだ。予選段階では5チームが揃っており「これだけ多くの学生が参加してくれたのは今回が初めて」(田添丈博・電子情報工学科講師)と喜びをにじませる。
関心を高めてもらうための秘訣は、低学年のうちから高専プロコンの参加を呼びかけたことだ。今回の本選出場チームはすべて4年生以下で構成した。上位入賞を狙うのならば授業などでより多くのことを学んでいる5年生を中心に揃えたほうが有利との見方もあるが、「1年生からでも積極的な参加を呼びかけている」(吉川英機・電子情報工学科講師)ことによって、すそ野を広げた。
さらに3回挑戦して結果が出なければ後輩に道を譲るようにと促した。
本選に一度出場すると「翌年も出たいという意欲が湧いてくる」(渥美清隆・電子情報工学科講師)傾向があるため、低学年から経験を積ませて3-4年生で結果を出させる。もし出せなければ後輩に譲る。こうしたサイクルを確立することで学生の才能を最大限に引き出すよう努めている。
創造性豊かなエンジニアを育成 中根孝司校長
鈴鹿高専は知育、徳育、体育を備えた全人教育を建学の精神とし、創造性豊かなエンジニアの育成に努めている。地元には本田技研工業の鈴鹿製作所や「鈴鹿サーキット」があり、自動車関連の産業が盛んな地域である。
鈴鹿市や商工会などと連携した「SUZUKA産学官交流会」では年に3回ほど交流会を開催。燃料電池や生物応用化学など最新の技術動向をテーマにセミナーを行っている。鈴鹿高専では研究成果を発表するなど地域貢献に取り組む。
国際交流では今年から米国・カナダの教育機関と提携し、夏休みを利用した1か月余りの研修を始めた。今は専攻科の学生が中心だが、「将来は海外インターンシップや本科の学生からの参加など国際活動の幅を広げていきたい」と中根孝司校長は意欲を示す。
昨年まで国内限定だった本科学生の研修旅行で今年11月、初めて韓国に行く。「若いうちから異文化や歴史を学ぶなど国際感覚を身につけて欲しい」との考えからだ。今年4月には中国・上海郊外にある常州信息職業技術学院との交流協定を結んだ。
悩みもある。自動車産業を中心とした景気回復で多忙になったため、インターンを受け入れてくれる企業が増えない傾向にあるという。「景気のいい時こそ人材育成に力を入れ、景気が悪くなった際に耐えられるようにすべき」と、中根校長は現状を憂えている。
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