ITジュニアの群像

第19回 福島工業高等専門学校

2006/10/09 20:45

週刊BCN 2006年10月09日vol.1157掲載

 福島工業高等専門学校(福島高専)は、全国高等専門学校第17回プログラミングコンテスト(高専プロコン)の自由部門と競技部門に出場した。自由部門は情報共有ツールの「モノリス──オンライン共有型クリップボード──」を開発。パソコンの標準的な機能であるクリップボードを情報共有に応用した作品だ。ソフトウェアを部品ごとに切り分けて参加メンバーの総力を挙げて開発した。(安藤章司●取材/文)

身近なクリップボードを応用

メンバーの総力をあげて開発

プロコン低迷期を経て、プログラミング愛好会へ


 

 福島高専は、かつてプロコン低迷期を経験した。1994年の第5回プロコンでは自由部門で第2位に相当する優秀賞を獲得、入賞も何度か果たしてきた。しかし4年前のプロコンは実質すべての高専が参加できる競技部門にすら「出場する学生がいなくなった」(島村浩・コミュニケーション情報学科講師)と振り返る。


 「声をかけても反応が鈍い。プログラミングを得意とする学生はいたが、チームを組んでプロコンに出場する体制がつくれない」(大槻正伸・電気工学科教授情報処理教育センター長)状況だったのだ。これを打ち破ったのが、電気工学科の大澤昇平さんが中心となって04年に立ち上げた「プログラミング愛好会」(以下、愛好会)だ。今年のプロコンも、愛好会のメンバーが協力して2部門出場を果たしている。


 愛好会は精力的な活動を展開し、実績を残してきた。05年6月には学校インターネット教育推進協会主催の「第7回日本ウェブ教材開発コンテスト」で最優秀賞を獲得。同年11月には福島県や会津大学などが主催するプログラミングコンテスト「パソコン甲子園」で第3位に入賞した。


 また、今年の夏休みには地元の中学生向けにプログラミングの公開講座を大澤さんが中心になって開くなど、「大澤君の存在は非常に大きい」(小泉康一・電気工学科講師)と高く評価されている。


 だが、愛好会はいま、転機に差しかかっている。頼りにされている大澤さんが、今年に入って会長をコミュニケーション情報学科3年の舟山智史さんに譲った。大澤さんは現在4年生で、来年は本科最終年次の5年生になるし、起業を検討しているからだ。卒業や起業で忙しくなる前に愛好会を運営するキーマンの育成に取り組みたいという狙いもある。





 

「全員参加」を目指し、部品化手法を取り入れる


 

 自由部門に提出した「モノリス─オンライン共有型クリップボード─」(以下、モノリス)は愛好会のメンバー間で「もっと活発な情報交換ができたらいい」(舟山会長)という思いからつくった。


 モノリスはパソコンの標準的な機能の「コピー&ペースト」などを行う一時的な記憶領域“クリップボード”を活用した情報共有ツールだ。グループウェアなど大規模な情報共有ツールはすでに市場に出回っているが、「愛好会のような小規模グループで共同作業を行うような場合に役立つツールはこれまでなかった」(コミュニケーション情報学科3年生の斎藤健さん)と話す。


 開発に当たっては参加メンバーと共同で作業が進められるようソフトウェアを個々の部品に分けて開発した。二代目会長を任された舟山さんの判断によるものだ。


 「愛好会全体のメンバーは現在約20人。何も手を打たなければ、プログラミングを積極的に学ぶ人と、そうでない人とに分かれてしまう。ソフトの部品化による開発手法を確立すれば、全員参加で開発に打ち込める」(舟山会長)とプロコンを通じて部品化手法を定着させ、愛好会の発展に役立てる方針だ。


 モノリスの開発ではそれぞれの部品開発の足並みが揃わず、「部品を統合して全体の動作テストを行うタイミングが合わない」(電気工学科2年の藤原拓巳さん)などの課題も残った。今後はメンバーの開発能力に応じた部品の切り分けなど改良を重ねることで、プログラミング技能の向上に努める。


 一方、大澤さんは競技部門に出場した。もともとソフトウェアのアルゴリズムの設計を得意としており、迅速な計算が求められる競技部門で役立てたいと考えたからだ。物質工学科2年生の小野紗貴さん、コミュニケーション情報学科2年生の遠藤周平さんもソフトの開発に参加した。


 全員参加を基本方針とする愛好会では、コミュニケーション情報学科3年生の鈴木友理枝さんをはじめとするサポーターも活躍した。人数の制約上、プロコン参加名簿には載っていないが、出場メンバーと情報を共有するなどさまざまなサポートを行うことで愛好会の底上げに努めている。


挑戦できる人間力を重視 安久正紘校長


 

 福島高専は全国の高専のなかでも珍しい文系の「コミュニケーション情報学科」を開設している。国際的な視野を持ち、外国語が堪能で、ビジネスの応用能力を備えた人材の育成に取り組む。“経営の分かるエンジニア、モノづくりの分かるビジネスマン”を育てようというものだ。


 「モノづくりの実践教育」という高専の基本方針は変わらない。そのうえで創造性と実践力を併せ持った21世紀の要請に応え得る教育に力を入れる。「自分の考えをしっかり持って、挑戦できる人間力」を重視している。


 情報化社会は仮想化が進み、ややもすれば情報の洪水に流されてしまう。「ひとつの情報にすべてを押し流されてはならない」。自身の考えや人間性を十分に身につけることが大切だと話す。


 「モノづくりの“モノ”はハードとソフトの両面を兼ね備えているという意味でカタカナで書く」。エンジニアでありながら、幅広い視野を持って創造力を発揮して欲しいという願いからだ。


 地域連携では昨年度、地元いわき市と包括協定を結んだ。グローバル連携では韓国の有名ホテルと提携し、コミュニケーション情報学科の学生を中心にインターンシップで学ぶ。毎年6-7人の学生が約1か月の時間をかけてホテルの業務を体験。英語でのコミュニケーションやビジネスを身につけようとしている。



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今年1月27日に開催されたBCN AWARD 2006/
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外部リンク

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