視点
情報大航海は新天地を求めよう
2006/10/02 16:41
週刊BCN 2006年10月02日vol.1156掲載
通産省(現経済産業省)は82年から10年間、高度な人工知能の開発を目指した「第五世代コンピュータ」プロジェクトを主導した。費やした研究開発費は総計570億円という。しかし、成果にはほとんど見るべきものはなかった。あるとき関係者に成果について聞いたところ、それは人材が育ったことである、ということであった。それにしては高額な教育費である。
通産省はさらに85年には、ソフトウェア開発の生産性向上を目指した「Σプロジェクト」を立ち上げた。5年間で250億円の予算が投入されたという。しかし、こちらも成果は上がらず、失敗プロジェクトになった。
この2つのプロジェクトが失敗に終わった原因として、構想が大きすぎて最初から実現の見込みはなかった、時代の流れを読みきれなかった、などという指摘がある。だが、実際には次の3つと考えるのが妥当であろう。
第一は両方ともハードウェアに力点を置いたことである。言い換えればソフトウェアの重要性を認識していなかった。第二は人材不足である。いまでもソフトウェア人材が足りない状況であるから、当時はなおさらだろう。第三はプロジェクトマネジメントの軽視であろう。わが国では一般にプロジェクトマネジメントの重要性があまり認識されていない。
今回のプロジェクトは3つめの失敗例になる可能性が高い。なぜなら、優れたソフトウェア人材やプロジェクトマネジャーが十分に育っていないからである。すでに巨人になったグーグルに、乏しい人的資源で挑戦しても勝ち目はない。
国家的大規模プロジェクトが悪いというのではない。それを推進するなら、卓越した能力をもつ人材を育成して確保する、プロジェクトマネジメントに力を入れる、といった配慮が必要である。さらに、そのテーマとしてはすでにある技術の後追いではなく、将来が極めて有望な新天地を探すことである。そのためのマーケティングに資金を投入することも大切である。15世紀に始まった大航海時代は、まさに新天地を求めて成功したのである。
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