ITジュニアの群像
第17回 東京都立産業技術高等専門学校
2006/09/25 20:45
週刊BCN 2006年09月25日vol.1155掲載
5年生チームが競技部門に初出場
最上級生のプライドを胸に秘めて
最上級生の意地にかけて「負けられない」思い
工業高専からは、5年生のチームが競技部門での本選出場を決めた。同校は、10年前の第7回の自由部門で審査員特別賞を受賞した実績があるが、その後は入賞を逃している。
今回の競技部門にチームとして出場するのは、電子情報工学科5年生の小島大輝さん、山本義耶さん、辻本隆矢さん。3人とも初めての出場だ。
プロコン初挑戦のため、「他のチームのことは全くわからないが、優勝は目指していきたい」(山本義耶さん)と、意欲をみせる。また、「1年生がメンバーに入っているチームには負けたくない」と、最上級生のプライドをのぞかせている。
同校の学生たちは、プロコンに対して「なかなか関心を示さないのが実情」(伊原充博・電子情報工学科教授)だった。「興味を示しても、自由部門や課題部門のアイデアを出すことに苦戦してしまい、エントリーに至らない」という状況に陥っていた。
しかし、決して学生たちに力がないわけではなく、4年前から毎年ACM/ICPC(国際大学対抗プログラミングコンテスト)にチャレンジし、過去には、国内予選を通過してアジア予選に出場した実績もある。今年も国内予選に出場し、大学生を中心とした全120チームのなかで60位となった。アジア予選には出場できなかったが、「悪い成績ではない」(辻本隆矢さん)と、実力を再認識した。自分の力を試すためにもコンテストに出ることの意義を実感している。伊原教授は、「学生たちが力を持っていることは確実」と評価し、プロコンでも実力を発揮することを期待している。
伊原教授は、「目的を持ってプログラムを作り、達成感を味わってほしい」と願っている。ICPCでの成績をみても学生たちは「技術力は持っている」。しかし、プロコンについては、課題部門や自由部門の壁を感じて、腰が引けてしまう学生が多く、「能力が隠れてしまい、なかなか表に出てこない」と伊原教授は残念がる。今回、競技部門に出場するメンバーたちは、「将来は、世の中の役に立つような便利なものを作りたい。自分の作ったものが人の役に立つことは最大の喜び」との思いを抱いている。プロコンでは、「最初で最後となる競技部門への出場を楽しみたい」と、学生生活の思い出として心に刻むつもりだ。
ショックは大きいが大切なことを学んだ
航空高専では課題部門に2チームがエントリーしたが、残念ながら両チームとも本選出場を果たせなかった。奮起して予選に臨んだ学生たちは、ショックと悔しさを隠せない。
2チームのうちのひとつは、電子工学科5年生で結成。課題部門に「ガチャランド―算数とガチャガチャの王国―」という作品でエントリーした。「小学生の理数離れが問題になるなかで、算数の問題を楽しく解いてもらう」(電子工学科5年生の上木悠司さん)システムを目指した。学生たちは、本選に出て高専5年間で学んだ実力を試したかったのだと肩を落としている。「もう少し余裕があれば…」(同学科5年生の宝理翔太朗さん)という後悔と、「そんなに甘くなかった」との反省が入り交じる。しかし、「経験は、なにものにも代えがたい」ことを学んだ。
もう一方のチームは、「プログラミング同好会」で結成した4年生3人。小学校低学年の子供を対象にした「パズルゲーム『Piece Of Brain』」でエントリーした。無数の組み合わせのなかから自分で答えを作り出すことで想像力を養うものだという。「時間が足りず、予選に間に合わせることを優先して、機能を削るなど妥当なところに収めた」(同学科4年生の佐藤優大さん)ため、持ち前の力を出し切れなかった。悔しさは残るが、この作品については「完成させて、秋の文化際で発表したい」と、意欲を燃やしている。
今回、残念ながら2チームとも落選してしまったが、電子工学科の吉村晋教授は、「プロコンにチャレンジした学生は、受賞・落選にかかわらず確実に成長している」と評価している。
モノづくりスペシャリストを育成 藤田安彦校長 長浜邦雄校長
都立産業技術高専は、都立工業高専と都立航空高専の統合により今年4月に開校した。藤田安彦校長によれば、「経営センス、国際センスなどの教養を身につけ、新しい技術を創造し、世界に発信するモノづくりスペシャリストの育成」が建学の精神という。なお、工業高専と航空高専は、現在の2年生が卒業するまでは現状の体制で教育を進めていく。
工業高専は、「1年生から旋盤を使った実習を行うなど、全員が基礎技術を学び、本科在学中のインターンシップで現場の課題と問題解決の方策を学ぶこと」(藤田校長)を重点に置いて教育している。学科によって違いはあるが5年生の約7割が就職を選ぶなど「高専のなかでも就職率はナンバーワンだろう」と自負しており、高度な学問や専門技術を備えた優秀な技術者を育成する「高専本来の目的を果たしている」と力説する。
一方、航空高専は、日本で唯一の航空工学科を持つ高専である。その特徴を生かし、「衛星設計コンテスト」や「鳥人間コンテスト」にも出場している。また、高専で初の人工衛星作りに力を入れており、学生たちが作った15センチ角ほどの超小型衛星の打ち上げに取り組んでいる。
航空学科をはじめ、全学科共通して「実践教育により、社会に役立つ人材を世に送り出す」(長浜邦雄校長)ことを目指すとともに、荒川区や北区などの地場産業の技術的なニーズに応えることにも力を入れている。また、「先生と学生が親密な関係を築き、学生に適した進路をじっくり考えられるため、専門分野に秀でた人材育成を行いやすい」と述べる。
|
- 1