視点

国家的見地に立ったIT戦略を

2006/09/04 16:41

週刊BCN 2006年09月04日vol.1152掲載

 国内ソフトウェア産業のぜい弱さが指摘されて久しい。OSからミドルウェア、ニュー・アウトソーシング、TCP/IP系まで、ほとんどが米国製で、経済産業省の報告書では、受託開発型ソフト会社を「パッケージ・ソフトウェアをベースにユーザーの要望に合わせたシステムを構築するカスタマイザー」とまで評している。オフショア開発やユーザー企業の要請を除くと、国際市場に打って出るソフト会社はなく、競争力のあるパッケージもない。

 それではいかにも情けないではないか、という思いを背景に、情報産業振興議員連盟(情議連)が総額2兆円の次世代技術開発プロジェクトを提唱したり、情報処理推進機構が〝未来の天才プログラマ〟の発掘に努めている。ところが現実に起こるのは金融機関のシステム統合の不具合や東証のシステムダウンなど、目を覆いたくなる体たらくだ。ソフト産業の問題は、ひょっとするとユーザー側にも原因があるのかもしれない。

 それを象徴するような出来事がある。証券の電子化に備えた国際決済システムがそれだ。証券業界の再編がささやかれた1980年代後半、共同センター構想が華やかに打ち上げられた。90年代には証券取引の翌日に資金の決済を目指す「T+1」が脚光を浴び、このときも共同決済機構が俎上に上がった。ところが証券の電子化を3年後に控えながら、取り立てて目立つ動きがないのはどうしたことだろう。

 そうこうしているうち、米国では有力な投資会社、金融機関、証券会社が協力して、証券や債権の取引(発注、約定、照合、決済)を、フロントからバックヤードまでインターネットで一貫処理するシステムをつくってしまった。プロジェクト参加企業が共同出資して、システムを外販する専門会社まで設立し、いまや米国標準システムのシェアは米欧先進国の4割、世界の6割に迫ろうとしている。

 証券市場の国際化対応は、日本経済のこれからを左右する。受発注は自動化できても、約定、照合の作業は依然として人手で行われ、からくも擬似的な「T+1」が実現しているが、証券が電子化されるととても間に合わない。

 この秋にも、米国標準システムが日本でいよいよ本格的に動き出す。決済処理を統括するサーバーは米国に設置されるという。経済活動の根幹が米国に握られようとしているのに、政府も産業界も無為無策に見える。国家的見地に立った真のIT戦略が必要だ。
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