ITジュニアの群像
第13回 会津大学「パソコン甲子園」
2006/08/28 20:45
週刊BCN 2006年08月28日vol.1151掲載
昨年上回るエントリー見込む
部門新設で参加者の裾野を拡大
大学生対象のコンテストと肩を並べる水準へ向かう
パソコン甲子園は、国内で最初のコンピュータ理工学専門大学として開学した会津大学などが主催する高校生を対象にしたコンクールである。2003年に佐藤栄佐久・福島県知事自らが推進役となって立ち上げた。第4回目となる今年の本選は11月11─12日の両日に会津大学で開催される。優秀者には賞状などが授与されるほか、希望すれば会津大学の推薦入学受験の資格も与えられる。
理数系の発想力が求められるプログラミング部門とストーリーを展開して創造性を競い合うデジタルコンテンツ部門の主要2部門があり、今年からデジタルコンテンツ部門のサブ部門として「いちまいの絵CG部門」が加わった。
プログラミング部門の出題形式は、大学生を対象にしたアメリカ計算機学会(ACM)による世界的競技会「ACM国際大学対抗プログラミングコンテスト」を一部参考にしている。国際競技でも十分通用する出題水準を目指しており、「パソコン甲子園に参加する生徒たちは毎年着実にレベルアップしている」(会津大学の前田多可雄・総合数理科学センター講師)と自信を示す。
全国から予選を通過した強豪チームが4時間にわたって競技するもので、問題を解くプログラムをその場で制作し、ネットワークを通じて提出する。今年は同じ学校の生徒2人で1チームを組んでプログラムを作成していく。
競技を盛り上げるため、様々な演出をこらす
プログラミング部門のエントリー数は年々増加。第1回目は31道府県から162チームが参加し、第2回目は38都道府県から203チーム、第3回目は39都道府県から257チーム、今年は333チームに増えた。一方、第1回目の開催では100問あった出題数は、50問、30問と回を重ねるごとに減少。数をこなすのではなく、より高度なアルゴリズムを求めたり、深い洞察力が必要な問題を増やすことで内容の充実を図る。
競技会場はプログラムの制作に没頭するあまり〝試験〟に似た雰囲気になってしまう。視覚的に訴えるスポーツのようにはいかない。
わくわく感や競争心を引き出すため、解答として提出されたプログラムはリアルタイムに近い形で審査。正解者の机の横には風船を取り付け、問題の難易度や正答数に応じて風船の色や大きさを変える。他のチームの進捗度合いが一目で分かるようにすることで会場の雰囲気を盛り上げる仕組みを採り入れた。
デジタルコンテンツ部門は、ウェブブラウザで閲覧できる静止画やフラッシュアニメーション、動画などで短編アニメーションを制作。本選では漫画家の松本零士さんが審査委員長を務める審査員の前でプレゼンテーションを行って優秀作品を決める。
昨年のテーマ「21世紀の大発明・大発見!」では山形県立新庄神室産業高等学校の作品「ミサイル トゥー ザ ドリーム」がグランプリを受賞した。
ストーリーは戦争中の近未来。ある科学者が「疑似映像装置」を発明して戦争をこの世からなくすというもの。疑似映像装置とは人々に戦争の悲惨さを擬似的なイメージとして伝える装置で、これにより地球規模で反戦ムードを高め、戦争終結につなげていく。テーマに沿った企画力や表現力、ユニークな発想が高く評価された。
今年のテーマは「××ロボット、○○くん!」。時代は20××年、ロボットが人間と共生している時代を想定し、身の回りにいるロボットを題材にストーリーを展開していく。
「いちまいの絵CG部門」では、ロボットをテーマに1枚のCG画像に表現する。アニメーションとは異なり、制作枚数を1枚に絞り込むことで、「より多くの生徒に参加してもらえるようにする」(堀主事)ことで裾野を広げていく考えだ。新部門の追加でパソコン甲子園全体のエントリー数は昨年を上回る見込み。
プログラミングがソフトウェアを開発するのに対して、デジタルコンテンツ部門はソフトウェアを使って表現力を高めることを主眼にしている。高校生の理数系の発想力と文系の表現力をコンピュータプラットフォーム上で開花させるコンテストとして年々存在感が増している。エントリー数も拡大傾向にあり、今年はよりレベルの高い競技や作品が期待できそうだ。
あえてハードルを高くし競わせる 会津大学 前田 多可雄 総合数理科学センター講師
前田多可雄講師は、2003年のパソコン甲子園創設時から主にプログラミング部門の企画立案を担当。会津大学で数学を教えるかたわら、パソコン甲子園のレベルアップに尽力してきた。
パソコン甲子園という名称は、高校野球で甲子園に集まる球児たちのようにレベルの高い競技を目指すことからつけられた。「健康維持のためにキャッチボールをするというレベルではなく、全国選抜を勝ち抜いたアスリートに相当するレベル」を念頭に置いている。
ソフトウェア開発では構造的な人手不足が続き、世界中の人がプログラマになっても人材供給が追いつかない「ソフトウェアクライシス」が指摘される時期もあった。しかし現実は欧米発の高性能なパッケージソフトや開発環境が整備され、大量に人手を動員して開発を行うプロジェクトは海外オフショア化に転換されている。
「国内のソフト産業が国際競争のなかで生き残っていくためには、鋭い感覚を養い、独自の発想力を身につけた人材を育成する必要がある」と、凡庸な人材を大量動員する従来型のスタイルでは伸びに限界があると考える。
プログラミング部門ではあえて高いハードルを設定し、出題数を減らしてでもより高度な問題解決能力を問う傾向を強めてきた。付加価値の高いプログラム開発能力を磨き、次の時代に必要とされる人材育成に努める。
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