ITジュニアの群像
第12回 宮城工業高等専門学校
2006/08/14 20:45
週刊BCN 2006年08月14日vol.1150掲載
培った技量を結集、総力戦で臨む
伝統校の名にふさわしい戦いを展開
年2回の発表会と部誌発行 充実した活動で俊英を輩出
宮城高専のプロコン出場母体はソフトウェア研究部会で、メンバーは25名ほど。クラブとしての活動が充実しているのが特徴だ。
毎週金曜日には全員参加のミーティングを開く。部としての活動予定を決めたり、連絡・報告をするのはもちろんのこと、部員が各自の1週間の活動結果を語り合って互いに切磋琢磨する。
部活動のハイライトは秋の高専祭における展示と発表で、部長の土田孝也さん(情報デザイン学科4年生)によると「各自が必ず1本のプログラムを制作して提出し、それを『Rationale』と称する部誌にまとめて発行する」というのだ。ちなみにRationaleというのは理論的根拠とか原理という意味。創刊メンバーの意気込みが伝わりそうな名称だ。
各自の研究発表はこれにとどまらない。冬休み中に年度後半の成果をまとめて正月明けに発表し、部誌を発行することが半ば義務づけられているという。いわば1年中プログラムを書いては走らせ、それを評価し合っているのだ。そして、プロコンはそうした活動の一環として位置づけられていることから、クラブの状況によってはエントリーしない年もあるという。
現在の指導教官は情報デザイン学科の北島宏之助教授。その北島先生も、週ごとのミーティングに顔を出すものの、「求められれば助言しますが、ふだんは学生の自主性に委ねています」と、あえて放任主義を貫く。それでも、「不思議なことに、リーダーシップをとる学生が毎年のように現れ、一気に盛り上がって突っ走る年もあるんです」。
今でも語り草になっているのは、競技部門で全国制覇を達成した5年前の大会。やれば優勝できると公言して部活を引っ張る学生が出現し、実際に栄冠を勝ち取ったことで、活動が一気に盛り上がったのだ。また、同時期の部員には、在学中に検索エンジンのアルゴリズムに関する研究でIPAの「未踏ソフトウェア創造事業」に公募し、400万円もの研究資金を獲得して学内を沸かせた学生もいた。それが、材料工学科に所属する部員だったところに、宮城高専の部活の特色が現れている。プロコン強豪校とは言えなくとも、ソフトウェア研究部会は最強クラブのひとつと言えるだろう。
自由部門のテーマ「dia」は、プロの開発技法を学ぶツール
今回の課題部門のテーマは、小学生向けプログラムエディタの「マリオネットPro」。子供の頃からプログラムを組むのに近い形で遊んでいれば、将来プログラミングに関心を持ってくれるのではないか…という発想から、視覚的なパズルゲームを制作することにしたそうだ。「見た目は3Dシミュレータで、設定した課題をクリアする遊びですが、実際のプログラミングと同じ流れをたどることによって、無意識のうちにプログラミング体験ができる」(電気工学科4年生の高橋明久さん)という触れ込みである。高橋さんがプログラム担当のチーフ、同4年生の橘内大輔さんが3Dグラフィック担当のチーフとなり、5人のメンバーで取り組む。
自由部門のテーマは「dia」。これはdeveloper、instruction、applicationから頭文字を取ったもので、中身はソフトウェア開発の支援ツール。既存のツールと違うのは、「プロが実際に用いる、ソフトウェア工学に準拠した開発技法を学ぶ、チュートリアル機能を兼ね備えたアプリケーション」(電気工学科3年生の高橋一晃さん)であること。まず描画モジュールを作成し、そのモジュールを使って5人のメンバーがひとつずつ開発技法を完成させるという分散プログラミングを、開発過程でも貫くのだという。
ソフトウェア研究部会のメンバーは、情報デザイン工学科と電気工学科の学生が大半だが、建築学科の学生もいれば、年度によっては材料工学科や機械工学科の学生も混じる。まんべんなく各学科から集まるのは、2年次まで混合学級を導入している成果だろう。そうした総合力がプロコンの場でどのように発揮されるのか楽しみである。
創造性教育の一環と位置づける 四ツ柳隆夫校長
宮城高専は早期からの創造性教育を重視している。「例えば…」と、四ツ柳校長が引き合いに出すのは熱力学第2法則のエピソードだ。効率100%の装置(=永久機関)を作ることは不可能だが、日本の大学生はそれを勉強によって理解する。ところが、「アメリカでは、私だったら作れると思う、モデルを考えてくるので見てください…という学生がたくさんいるというのです」。
知識を身につける前に、想像力を逞しくしたり、創造性を発揮させる教育機会を与えなければ、豊かな発想は出てこない。そんな危機感をもとに、同校では1年次からものづくりに触れることを通した創造演習を取り入れ、2年次までは学科の枠を取り払った混合学級を導入している。想像力豊かな技術者を育成する基盤づくりのためだ。ロボコンやプロコンについても、自らアイデアを出し、学んだ技術を応用しながら仮説と検証を繰り返して目標に近づくイベントであることから、こうした創造性教育の恰好の実践の場として高く評価している。
四ツ柳校長の熱意は、「我流のなかに創造性につながるヒントがある」という言葉に象徴されている。スポーツにたとえるならば、フォームを矯正するよりもその選手固有のフォームが生み出すオリジナリティを長所として評価したいというのである。今年のプロコンは面白くなりそうだ。
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