ITジュニアの群像
第10回 八戸工業高等専門学校
2006/07/31 20:45
週刊BCN 2006年07月31日vol.1148掲載
4年連続で審査員特別賞を受賞
他流試合に積極参加し腕を磨く
学習ノートの共有からコミュニティ形成を目指す
プロコンへ参加するメンバーは電子工学部に所属している。アマチュア無線部が平成8年を境に衣替えしたもので、短期間にプロコン常連校となり、平成11年度の第10回大会で自由部門(当時のコンテンツ部門)最優秀賞(文部大臣賞)を受賞して以来、強豪校のひとつに定着した。
電子工学部は、他流試合へ積極的に参加しており、プロコンだけでなくNTTドコモ東北が主催するiアプリコンテスト、福島で例年開催されるパソコン甲子園への出場が年間スケジュールの3本柱になっている。
今回の自由部門のテーマは学習ノート共有システムの「Web leaf」。学習ノートを作成・共有することで、学生間または学生と教員のコミュニティを実現するシステムを目指している。
発案者は電気情報工学科2年生の河原木政宏さん。勉強を進めるうえで、「他の学生はどのようなノートを作っているのか知りたい」とか「試験対策として効率的なノートづくりがあるのではないか」「学生が授業を的確に理解しているかどうか学生と教員の間でコミュニケーションできないか」など、日頃の勉学を通じて抱いた問題を解決するツールとして、みんなで作り上げるノートという発想が生まれたのだそうだ。
ブラウザを利用してWWWサーバー上のハイパーテキスト文書を書き換えるウィキ(Wiki)というシステムがある。ウィキではネットワーク上のどこからでもテキストを書き換えることができ、共同作業で文書を作成することができる。これを利用して、ボランティアによってネット上に展開されているのが、フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」である。河原木さんはこのウィキを利用してノートの公開や「いいとこ取り」のノート作成ができるのではないかと考えた。
この発案にインスピレーションを刺激されたのが、電気工学科5年生の立花健吾さんである。ネットワーク技術に関心を寄せていた立花さんは、最初は掲示板のようなスタイルを想定したそうだが、これを学生間、学生と教員間の思考のツール、知的財産形成のツールとするために機能を絞り込み、共有ノートとしての性格を明確にしていく。
Web leafのシステムとしての目的は、ブラウザ上で動作するデジタルノートの作成と共有であり、そのためにノートの編集と管理が容易にできるような機能を持たせていくことになる。まず、入力されたテキストや画像をコピーしたり張り付けたり、関連事項へのリンク作成機能を持たせる。これは編集ツールボックスで実現する。次に、スキャンしたデータやマウスで描いた図形を張り付けるためのグラフィックエディタを用意する。これを勉強に役立てるために問題作成機能を持たせ、単語帳のように切り出して使う機能は携帯電話からデータをダウンロードできるようにする。
ただし、システムが完成したとしても、利用されなければ意味がない。掲示板のROMのように、自分は眺めるだけで共有ノートの作成に参加してもらえないのでは開発する甲斐がない。部長の田村清貴さん(電気工学科5年生)は、Web leafへの参加者・発信者を増やすために、ある仕掛けを考えた。それは、共有ノートへの書き込みや編集に参加した度合いに応じてポイントを付与し、そのポイントによって他者のノートを閲覧できるという仕組みである。夏休み中に最低限のデモができるVer.1にこぎ着け、そこからシステムを練り上げていく予定だ。
プロコンの作品をベースに、地域に役立つソフトを作ろう
電子工学部の指導教官は電気情報工学科の細川靖講師、顧問は久慈憲夫教授。両先生とも、「プロコンをきっかけに成長する学生と出会えることが、教師としての楽しみであり醍醐味でもある」と語り、学生に社会のニーズを感知させるために、地域社会に積極的に出向く。これまでも、町おこしのプログラムを企画した学生を引き連れて商工会議所に出向き、防災システムを創案した学生を防災ボランティアに派遣するなど、システムを使う側のニーズや問題点を現場に即した形で身につけさせることに努めてきた。プロコンを越えて、地域社会に役立つソフトウェアを実現して欲しいからだ。
「プロコンへの参加だけで終わらせるのはもったいない。彼らのポテンシャルはこんなものではない」(細川講師)、「ここで学んだことは、必ず社会に出てから役に立つ」(久慈教授)との励ましに支えられ、メンバーは夏休み中の合宿を経て10月の本選に臨む。
プロコンは実践教育の一環 井口泰孝校長
八戸高専は「ものづくりに興味を持ち、将来、優れた技術者として社会に貢献することに熱意を持った学生」の育成をアドミッション・ポリシーとしている。
井口泰孝校長はこの4月に就任したばかりだが、「電気系・機械系の女子比率を高めて、女性の視点を生かした技術の在り方をもっと追求したい」「学生のニーズを汲み上げるために、校長と学生が直にコンタクトできる環境を全学レベルで実現したい」と、エネルギッシュに活動している。
その井口校長は高専プロコンとロボコンについて、「学生が興味を持って取り組むことができる実践的教育の一環であり、しかも一般社会や産業界の注目度も非常に高い。とりわけ、実際に役立つものを作るという高専教育にマッチしたイベント」とみている。実践教育に結びつくステージというわけだ。
そのうえで、情報系のカリキュラムが少ないというハンディを抱えてプロコンを戦う自校の学生と教員に、最大限の評価とエールを送る。
近い将来、プロコンやロボコンなど「ものづくりの魅力」を他校に“輸出”し、他校(たとえば、文部科学省認定のスーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール=SELHi)から質の高い英語教育を“輸入”するなど、相互互恵を目指した交換授業をぜひとも実現させたいという構想を持っている。
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