未来を紡ぐ 挑戦するソフト開発企業 

<未来を紡ぐ 挑戦するソフト開発企業>87.ネットワーク応用通信研究所

2006/07/31 20:44

週刊BCN 2006年07月31日vol.1148掲載

OSS武器にユーザーと直接取引

 ネットワーク応用通信研究所(井上浩代表取締役社長)は、オープンソースソフトウェア(OSS)の開発と、OSSを活用したシステム構築事業を強みにする。同社の社員が開発に関わるOSSは10個以上で、なかでもウェブアプリケーション開発ツール「Ruby on Rails(ルビー オン レイルズ)」は有名。「ルビーの操作トレーニングを開発者向けに個別でお願いしたいと申し出る開発会社も出てきた」(井上社長)という。

 同社の顧客は、ほとんどがエンドユーザーで、大手ITベンダーの下請け開発案件はまれだ。本社は島根県松江市に置くが、顧客の7-8割は首都圏の企業・団体。2001年設立と社歴は浅く、企業規模も決して大きくないが、「90年代後半からOSSを研究・活用している実績が差別化要素になり、OSSに注目しているユーザー企業・団体から仕事を獲得できる」という。これまで50社・団体のシステム構築を手がけてきた。

 なかでも、全国の医療機関を会員に持つ日本医師会はビッグユーザーで、医師会のフロントおよびバックオフィスシステムの開発を請け負うほか、ホームページの制作も担当。そのすべてがOSSベースで動いている。そして、同会が進める医療機関のIT化推進プロジェクト「ORCAプロジェクト事業」のなかの重点施策だったOSSのレセプトソフト「日医標準レセプトソフト」の開発も受注した。日本医師会の推奨ソフトとして、現在約1400の医療施設がこのソフトを利用している。

 「OSSは多くの開発者が連携をとり、普及させないと意味がない」との考えから、島根県内のソフト開発企業や研究者、技術者が集まって意見交換するコミュニティとして「OSS協議会」を、井上社長が仕切って7月24日に設立した。設立発起人には、同社や島根大学教授など地元企業・団体のほか、オープンソース・ジャパンや伊藤忠テクノサイエンス(CTC)、楽天など首都圏に本社をかまえる企業も名を連ねる。「島根県といえばOSS。そう連想させる」よう、OSSの普及促進を後押しする取り組みも行う。

 ソフトウェアは無償公開し、そのソフトを動かすためのシステム作りや保守サービス、導入コンサルティングをメインビジネスに据える。「商用ソフトの提供よりも儲けるのは難しい」と井上社長はいうものの、「OSSを中心にしているからこそ他社と差別化ができ、ビジネスが成り立つ」とも話す。下請け開発ではなく、OSSを武器にエンドユーザーとの直接案件を着実に増やし続けている。(木村剛士)
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