視点

文化や感情を知ったうえでの情報モラル

2006/07/24 16:41

週刊BCN 2006年07月24日vol.1147掲載

 インターネットが爆発的に普及した1998年、私は『インターネット時代の著作権とプライバシー─情報モラルの確立に向けて』(アルファベータ)を出版した。誰もがコンテンツの制作者になりうるデジタルの世界にあっては、著作権やプライバシー、セキュリティやネチケットなど「情報モラル」を意識する姿勢が大切なことを訴えた。それから8年、現在の情報モラルを巡る状況を新著作にまとめた。『情報モラル宣言─インターネット時代の生きる力を育てる』(ダイヤモンド社)として7月下旬に発刊される。

 この8年の間、ACCSの著作権保護活動については、海賊版販売など侵害行為への対処とともに、「法」と「教育」と「技術」のバランスが必要だと考え、とりわけDRM技術の普及やリサーチにも関わってきた。しかし、著作権保護技術であるDRMが、本当にクリエイターの意識と合致しているのか、最近、疑問を呈する意見を見聞することがある。

 これまで私は、著作権をはじめ情報モラル教育の実践として、講演や授業で話をしてきた。必要性を訴えるだけでなく相手に伝わってこそコミュニケーションだと考えているが、なぜ著作権を守らないといけないか、相手が持つ文化的な背景や感情に対してリアルに理解されないと意味がない。法律で決まっているからとか世界標準だから、という理由では伝わらない。最近では中国でも同様の活動を行っているが、相手国の文化や感情を知ったうえで伝える努力が必要なのだと思う。

 前書から8年たって、著作権についても情報モラルについても理解が広まったことは前進である。一方で、ACCSの活動がデジタルコンテンツ全般に広がり、世界が舞台になってきたが、まだ緒についたばかりである。法と教育とともにバランスを保つべき技術についても、クリエイター自身から賛同が得られるよう活動を深めたい。情報モラルをめぐる状況は、まだ多くの課題を抱えているのだから。

 情報モラルという言葉は当初、情報化の影の部分として登場した。しかし、著作権違反やプライバシー侵害は情報化以前から存在したのであって、情報化によって広く認識されるようになったのである。情報モラルは、むしろ情報社会を明日に導く光であると思う。新しく著した本には、そういう思いを込めた。
 
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕
久保田 裕(くぼた ゆたか)
 1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。
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