ITジュニアの群像
第9回 長岡工業高等専門学校
2006/07/24 20:45
週刊BCN 2006年07月24日vol.1147掲載
エース投入で上位入賞狙う
電算機部の精鋭メンバー揃える
HSPとの出会いで、プログラミングに目覚めた
競技部門に出場するチームのリーダーは、情報工学系サークル「電算機部」部長を務める電子制御工学科4年生の関孝洋さん。同級生で電算機部メンバーの小池友司さんとともに参加する。プログラミングやマルチメディアの優れた技術を持つ精鋭メンバーを揃え、「総力を挙げて競技に臨む」(関さん)構えだ。
関さんがプログラミングに初めて接したのは1998年。親戚から譲ってもらった中古のパソコンに、小学生でも扱える簡便なプログラミング言語環境「ホットスーププロセッサー(HSP)」をインストールしたときだった。たまたま購読していたパソコン雑誌の付録CDから入手した。
アプリケーションソフトを素早く起動する「ランチャー」や、テキスト文字を編集する「エディター」、簡単なゲームソフトなどを自ら開発していくうちにプログラミングの楽しさを知った。長岡高専を進学先に選んだのもHSPとの出会いが影響しているという。入学後は電算機部に入部し、1年生から連続してプロコンに参加。今年4月に部長に就任した。
今ではプログラミング言語の「C」「C#」「デルファイ」などを駆使し、より高度なソフトウェア開発に挑戦する、根っからのパソコン好きだ。
04年、週末を自宅で過ごしていたときに発生した新潟県中越地震では、揺れ始めると同時に自室のパソコンデスクの下に飛び込んで事なきを得た。「直後にはタンスが倒れてきて、危うく下敷きになるところだった。パソコンデスクに助けられた」と、パソコン好きであったことを感謝している。
ゲームをきっかけにマルチメディアの道へ
一方、小池さんはマルチメディア系の技術に強い関心を抱く。中学生のときにソフトウェア開発団体の「灯(ともしび)」が中心になって開発している3D(立体)アクションRPG(ロールプレイングゲーム)のオンラインゲームに出会い、マルチメディアの魅力にとりつかれた。入学後は学園祭の音楽コンサートで使われた音響設備に感銘を受け、「将来は、デジタルとアナログを融合させたマルチメディアの道へ進む」ことも検討しているという。
小池さんのことをよく知る電子制御工学科の佐藤秀一・助教授は、「音楽コンサートでは普通、美しい調べに感銘を受けるもの。だが、小池君の場合はあくまでも音響設備というテクニカルなところに目がいったわけで、技術者魂を大切にする高専生ならではの着目点」と、エンジニアとしての素養が培われてきたことを評価する。
OSSを巧みに活用する海外チームに驚嘆
昨年の競技部門では、海外から参加したチームの実力を見せつけられた。インターネットで公開されているオープンソースソフト(OSS)を巧みに活用して高性能なソフトを効率よく開発。「普通はゼロから手作りする。それが高専生の基本的な開発姿勢」(電気電子システム工学科の山誠・教授)とは異なっていた。前者がオープン環境で主流の「水平分業型」ならば、後者は日本の製造業などでみられる「垂直統合型」に近いものともいえよう。
プロコン担当教員で電子制御工学科の竹部啓輔・助教は、「設計思想の違いもあるが、学生のうちはコツコツとものづくりの経験を蓄積してもいいのではないか。一定レベル以上に達した技術者は別だが、初心者の段階でOSSやフリーソフトへの依存度を安易に高めると、生産者ではなくて消費者になりかねない」と、基礎段階では地道なプログラミングを重視する。
今年の競技部門のテーマ「片付けマス」は、昨年とは異なりソフトウェア技術の優劣に加えて、「相手の出方によっても勝敗が変わってくる」(関さん)内容だという。〝勝負運〟も影響してくるため、「プログラミングですべてが決まるわけではない」(総合情報処理センター技術室第三技術係の渡邉雅博さん)と見られている。
現在、電算機部の主要メンバーは10人ほどで、プログラミングに興味がある学生の数に比べれば人数は少ない。今大会で好成績をあげることができれば、目下の課題であるメンバー増員に弾みがつくだけに、キーボードを叩く指にも力が入る。
グローバル化は自然な流れ 高田孝次校長
近隣アジア諸国との連携が日本のソフトウェア産業の発展に欠かせない要素になっている。
長野高専では、「ソフト開発のグローバル化は自然の流れであり、むしろ協力関係をより強めていかなければならない」(高田校長)と前向きに捉えている。
海外に仕事が奪われるのではないかとの脅威論がくすぶり続けているものの、「実態として日本経済はアジア諸国との連携の上に成り立っている側面がある」と、製造業など他の産業を見てもグローバルな協業がより積極的に受け入れられていると分析する。
今後はアジア諸国との連携の中で日本のソフト開発産業がどうリーダーシップを発揮していくかが課題になる。「努力しなければ、追い抜かれて、置いていかれるだけ」と警鐘を鳴らす。
連携していくためには、高度な技術力を身につけるとともに、豊かな創造性を育てることが大切だ。だが、こうした素養は、「教えて身につくものではない」のが教育上難しいところだと語る。
「創造性は学生が持っている個性のなかに含まれている。環境を整え、適切な刺激を与え続けることでのみ開花する」と指摘する。 高専生はスキルは高いが創造性の面では確固たる評価が得られない傾向があり、「プロコンのような独創性、創造性を引き出す環境に学生を置くことはとても重要だ」と参加を奨励している。
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