ITジュニアの群像
第7回 東京工業高等専門学校
2006/07/10 20:45
週刊BCN 2006年07月10日vol.1145掲載
SPC中心メンバーがエントリー
上位入賞でサークルの活性化狙う
敗因を分析し、雪辱を期す
SPCはソフトウェア開発を研究するサークルである。2002年4月に発足し、同年10月開催のプロコン競技部門で最優秀賞を獲得した実力派だ。
精鋭メンバーが揃ったSPCが中心となり、再度の上位入賞を目指して毎年、果敢にプロコンに挑戦し続けている。昨年のプロコンには東京高専から自由部門2チーム、課題部門2チーム、競技部門1チームと1学校あたりのエントリー枠をフルに使って応募。このうち自由と課題の予選を通過したのは各1チームで、実質予選がない競技部門と合わせて計3チームの体制で本選に臨んだ。
だが、惜しくも上位入賞はならずに悔しい思いをした。サークルの限られたリソースに対して応募数を増やしすぎ、「結果的に力が分散してしまった」(坂井SPC会長)と敗因を分析する。今年は競技部門に1本化し、精鋭メンバーを集中的に投入する戦略で上位入賞を目指す。
主力メンバーに選抜されたのは次期会長に内定している後輩の新居宏明SPC副会長(情報工学科3年生)。ここ数年のプロコン参加の経験を経て下級生の実力がついてきたと判断したためだ。
新居さんは、昨年、プロコンの競技部門に先輩らとともに参加しており、今年は再度のチャレンジになる。「前回の競技部門の敗退が決まったとき、今5年生の先輩から『来年の競技部門はおまえに託す』と言われたことが再チャレンジのきっかけ」と、先輩から受け継いだSPCの伝統を背負ってのスタートだ。
副会長とともに今年の競技部門に参加する情報工学科2年生の一戸優介さんは、「昨年に比べて今年の競技部門のテーマは分かりやすい。ぱっと見た感じ、自分にもできると直感した」と、2年生でも十分戦力になると思ったという。
同じく情報工学科2年生で、競技部門への参加メンバーである栗原竜矢さんは、「もともとテトリスなどパズルゲームが好きで、与えられた課題を解く競技部門との相性がいい」と他の2人のメンバーとともに、持てる力を存分に発揮する考えだ。
知識だけでなく、意思疎通も大切に
SPCのメンバーにとって、プロコン参加は別の意味合いも持つ。現在、サークルの主要メンバーは約10人。情報処理をメインに学ぶ学科を設置している高専にしては参加メンバーが少なすぎるというのが、大きな課題になっている。02年にプロコン競技部門で最優秀賞を受賞した直後は注目を浴びたものの、近年は停滞感が漂っている。
今年のプロコンで上位入賞を成し遂げれば、プログラミングに興味を持ってくれる学生が増え、「おのずとSPCに学生が集まるはず」(坂井会長)と期待を寄せる。
メンバーが増えれば、プロコンだけでなく、ITベンダーなどが主催する各種コンテストや情報処理推進機構(IPA)の公募事業など活動の領域も広がる。さまざまな経験を通じて授業だけでは学びきれないプログラミングの力を伸ばせば、将来の可能性を探ることができる。
SPCメンバーで「中学校のときから数学が好き」という情報工学科2年の入子裕樹さんは、「プログラミングのロジックを考えるのが得意。将来はセキュリティツールを開発するなど、自分のプログラミング力を社会の役に立てたい」と話す。一戸さんは「新しい言語や開発フレームワークを生み出したい」と、今主流になっている.NETやJavaを置き換えるような斬新なコンピューティング環境を創り出す夢を描く。
プロコン担当教員の鈴木雅人・情報工学科教授は、「SEなど技術系の職種においてもコミュニケーションやチームワークの能力が近年強く求められている。学生にはプログラミングの専門知識にプラスして人との意思疎通の大切さをプロコンから学んで欲しい」と注文する。小嶋徹也・情報工学科助教授は、「さまざまなコンテストに出場して実力を高めて欲しい」と側面から支援する。
プログラミングが専門の情報工学科助手の松本章代さんは、「プログラミングは今主流の.NETやJavaだけでなく、さまざまな選択肢や可能性を秘めている。固定観念にとらわれず、楽しみながら自由な発想で取り組んでいくことが大切」と、SPCを中心とする若きプログラマたちにエールを送る。
自信と誇りを持てる技術教育を
水谷惟恭校長
東京高専が立地する東京都八王子市は20余りの大学キャンパスが集まり、およそ10万人の学生が通う知識集約都市である。こうした環境のなかで、「高専生が自信と誇りを持てるよう、高度な技術教育を行う」ことに力を入れている。
5年間の一貫教育を経て本科を卒業した学生のうち約半数が専攻科や他大学へ新編入する。高専設立当時とは違い、高専で学んだことを基礎にしてさらに高度な技術やマネジメント力を身につける学生が増えている。「プロコンは学生の研究開発意欲やコミュニケーション力を高めるのに大いに役立っている」と評価している。
課題はこうした学外、学際的なコンテストに出場したり、SPCのようなサークルに参加して実力を伸ばそうという学生がそれほど多くないことだ。「昨今、プログラミングが敬遠される傾向があるとすれば残念なこと。もっと多くの学生に数学やプログラミングの魅力を感じてもらいたい」と、所属学科を問わず裾野を広げていく努力が大切だと考える。
普通高校から大学へ進んだ学生は、高専に比べて自ら手を動かして学ぶことが少ない。対して、高専生は15-16歳の頃から実習や実験を繰り返し経験している。「こうした若い時の経験は、卒業・進学してからも役に立つ。ゆくゆくは企業の技術系トップにまでのぼりつめてほしい」と、水谷校長は将来への希望を語る。
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