ITジュニアの群像

第2回 鳥羽商船高等専門学校

2006/06/05 20:45

週刊BCN 2006年06月05日vol.1140掲載

 鳥羽商船高等専門学校(山田猛敏校長)は、昨年の全国高等専門学校プログラミングコンテスト(プロコン)で文部科学大臣賞を受賞した実力校である。BCNが次世代のIT技術立国の明日を担う世代にモノづくりの情熱を伝えることを目的として今年創設した「ITジュニア賞」も受賞している。最優秀チームを引っ張った元メンバーに話を聞くとともに、現役の後輩たちの今年のプロコンにかける意気込みを語ってもらった。(安藤章司●取材/文)

名うての実力校、連覇に挑む

先輩から後輩に意欲伝える

主婦の目線をテーマにチームを引っ張る


 

 辻井祥子さんのチームは、昨年のプロコンで文部科学大臣賞を受賞した。独創的なアイデアと技術、チームワークの良さ、高度なプレゼンテーション能力などの総合力が審査員から高く評価された。


 チームのリーダー的な存在となって活躍した辻井さんだが、応募直前まで「予選に落ちればいいのに」と内心思っていた。「卒業に必要な研究に集中したかったし、卒業後の就職のことも気になっていた」というのが本音だったと笑う。


 実際、就職活動で悩んでいた。すでに結婚していた辻井さんは、高専4年生の初めに出産のため休学。元気のいい女児を産んだ。3年間のブランクを経て復学、5年生になって就職活動をしてみると意外なほど苦戦した。


 「子持ちだからなのか、通常の卒業よりも3年遅れているからなのか分からなかった」


 卒業研究の担当教員が熱心で「半ば強制的にプロコンを勧められた」のが、参加へのきっかけとなった。予選を通過して実際にプログラムの開発作業を進めていくうちに、状況はどんどん苦しくなっていった。同級生の就職が次々と決まって心理的な圧迫感が増幅し、アイデアを実現する技量の不足や進行管理の甘さが表面化。卒業研究や子育て、家事で手を抜くわけにもいかない。


 「プロジェクトは危機的な状況でしたね」と肩をすくめる。


 当初、「ホームセキュリティシステム」の開発を計画していたが、過去の作品と重なったため、急きょ「ベランダや庭に干した洗濯物の監視」に変更した。


 「子育てや家事をしたりしていると、何かと洗濯物が増えるし、学校で勉強しているときには、雨は降らないか、風で洗濯物が飛ばされていないか、がすごく気になる。きっと多くの人に共感してもらえる」と思った。プロコンから提示された課題「街に活きているコンピュータ」とも合致している。


 プロコンに腰が引けていた辻井さんに、火がつき始めたのはこの頃からだ。母親になって洗濯物が身近に感じられたこともあったが、3歳年下の同級生たちがアイデア実現のために四苦八苦している姿をみて「放っておけなかった」。


 本選の10日前からは、ほぼ連日のように学校に泊まり込んだ。「朝方まで作業をして、そのまま椅子を並べてごろ寝。当日の授業はあやうく居眠りしかけて、放課後はまた作業を続ける」という具合だ。「夫は普段から育児や家事に積極的だが、追い込みのときはいつにも増して手伝ってくれた」と家族の協力も得られた。


 プロコン本選では、発表されたすばらしいプロジェクトに賞賛が集まった。会場に来ていた別の学校の教員が紹介してくれた企業が、今年4月に就職した会社だ。大手造船の情報システム子会社で、母校の鳥羽商船も推薦状を書いてくれた。


 プロコンでの評価が、崖っぷちに立たされていた辻井さんを救ってくれた。


 「あのときの寄り道がなければ、今の道は開けなかったかもしれない」。社会人となった今、辻井さんは笑顔でそう振り返る。


 

大会参加の経験生かし、万全の準備で臨む


 

 鳥羽商船の制御情報工学科の研究室は、今年のプロコンに参加する学生たちの熱気であふれている。最優秀に輝いた独創的な発想力は下級生にもしっかり受け継がれた。今年もさらに磨きをかけた技術とアイデアで連覇を狙う。


 昨年の大会にも参加した経験がある制御情報工学科5年生の中西航さんは「プロジェクト管理がいかに大切か分かった」と、徹夜の追い込み作業をしなくても済むよう、万全な準備で臨む構えだ。同・井田健吾さんは「授業で学んだことを実践に生かすのは楽しい」と再挑戦に意欲を燃やす。下級生の同科3年生の杉本真佐樹さんは「5年生には負けません」と宣言。同級生の山崎清也さんも「優勝を目指す」と気合いを込める。


 プロコンを担当する北原司・制御情報工学科助手は「プロコンを通じて物事に対するかかわり方や主体性を身につけてほしい」とエールを送る。


リーダーシップ発揮できる人材育成に力
山田猛敏校長


 

 鳥羽商船高専の卒業生が社会にでてからの評判は「非常に誠実でまじめ」である。


 技術者に欠けることが多いとされるコミュニケーション能力についても評価は高く、技術教育だけでなくプレゼンテーションの訓練やチームワーク、外国語学習にも力を入れてきた同校の取り組みが実を結んでいる。


 この次の段階として山田猛敏校長は「リーダーシップの素養を身につける」ことの大切さを指摘する。


 コミュニケーション能力などメンバーシップの良さを伸ばしつつ、「紳士淑女の精神に基づいて、自分が正しいと思ったことを他人に説得し、かつ納得させるリーダーシップを発揮できる」人材の育成に努める方針だ。


 チームで一つの成果物をつくり上げていくプロコンでは、本選が近づき開発が佳境に入ってくると思わぬ課題がいくつも浮上してくることが多い。


 問題に突き当たると当初はチームのなかでそれぞれの役割が曖昧でややもすれば消極的な関わり方をしていた学生が、俄然リーダーシップを発揮しチームを危機から救うことがある。リーダー役を買って出た学生も、そうでない学生もリーダーシップの重要性に気づく。


 社会に出たあともこうした経験が役立ち、自らの力を存分に生かしていくことが期待される。


ITジュニア賞
 BCNは、IT産業に多くの優秀な人材を招き入れるために、毎年、IT技術に取り組む優秀な若者たちを表彰する「ITジュニア賞」を主催しています。

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BCNは、未来に向けて技術の夢を育む人たちを応援します。

今年1月27日に開催されたBCN AWARD 2006/
ITジュニア賞2006表彰式の模様

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外部リンク

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