コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第58回 宮崎県

2006/06/05 20:42

週刊BCN 2006年06月05日vol.1140掲載

 民間の有力企業が少ないことから官公需に頼りがちな宮崎県内のSIerだが、自社開発商品を全国に展開するかたわら、国内オフショア開発にも熱心だ。県外でも太刀打ちできるスキルがあると胸を張る上位企業の胸の内は…。(光と影PART IX・特別取材班)

官公需要に頼らず県外に活路 全国に通用するスキルを磨く

■県も地場SIerもITプロ養成に注力

 宮崎県ではSIの売上高構成比に占める官公需要の割合が、九州の他県に比べてかなり高い模様である。

 300人以上の社員を擁する地場大手のデンサン、宮崎情報処理センター(MJC)ともに、売上高に占める官公庁と自治体向けシステム、またはソリューションの割合は約25-30%。県内には大小合わせて100社以上の開発会社が存在するといわれるが、その多くが自治体向けにシステムを構築する大手エンジニアリング会社の下請けで成り立っているようだ。

 「県内に本社を持つ有力企業は地銀くらいのもの。民間のIT需要はごく限られているので、官需にぶら下がらないと食べていけない構造がある。このため、SIerとして生き残っていくためには、県外に進出しても太刀打ちできるスキルを身につける必要がある」。こう語るのは、宮崎県情報産業協会長を務めるMJCの川崎友裕社長である。

 平成の大合併で、ときならぬ“特需”に沸いた県もあるが、宮崎県ではこの1月に宮崎市と周辺3町(佐土原、田野、高岡)が合併して、旧3町のシステムが宮崎市のそれに統合されたことをもって一段落した。自治体数が減少したことにより、仕事を失った企業はその喪失分をどこかで埋め合わせなければならず、いっそう民需に力を入れなければならない状況にある。

 もっとも、宮崎県のIT技術者のスキルは九州でもかなり高いレベルにある。これはIPAと県、自治体、民間企業の出資によって設立された宮崎ソフトウェアセンターが、地域の高度なITプロフェッショナルの育成に力を入れてきたからだ。同センターの設立に際して中心的な役割を果たしたのが川崎氏である。

 最近では経営に役立つITスキルの向上を目指して、とりわけITコーディネータの育成に力を入れており、宮崎県は福岡県に次ぐ有資格者数を誇る、といわれている。

 MJCは県外指向が強く、売上高の3分の2以上が県外の仕事。東京で受注した仕事を宮崎で開発することはもちろん、福岡支社にも協力会社を含めて150名のスタッフを張り付けて、NTTなど通信系ソフトやシステムの開発に当たっている。同社の強みは地域防災ソリューションや消防本部OAシステムなど独自のパッケージを持ち、全国の自治体や消防署に納入している点。災害対策と環境保全など、社会システム開発のために研究所まで設立したことは人材募集面でも顕著な効果を生んでいる。

 同社の陣容は社員約350名、協力会社スタッフが約200名。2010年にはこれを1000名体制に拡大し、売上高でも100億円超を目指す。川崎社長は「東京の仕事を宮崎に持ってくる国内オフショアの仕組みづくりに、情産協としても積極的に取り組む」と意欲的だ。

 一方、66年の設立以来、大型汎用機、オフコン、PCによる各種システム開発に携わってきた老舗のデンサンも、自治体向け基幹システムやサブシステムの実績は豊富だ。同社は日本IBMのパートナー企業でもあり、官公需、医療、民需の各事業部門の売上高構成比はそれぞれ30%、30%、40%でほぼ均一化している。

 県外に広く知られているのは、デンサンが自社開発した歯科向けシステム「AXISシリーズ」。これはカルテや診療明細の作成管理システムで、金沢市の浅野歯科産業を通して全国に約2000本の納入実績を誇る。歯科における領収証発行の義務づけを控えて、この春に新シリーズをリリースしたのも需要拡大を見越してのことだ。

 民需でも業種に特化したさまざまなシステムを開発中だ。なかでもゴルフ場総合管理システム「S─wing」は読売CC、奥道後CC、宮崎CCなど全国の有名なゴルフ場で採用されている。

■採算のとれるオフショア開発を目指す

 「多くのシステム構築経験から、業務改革プロセスにマッチしたシステムづくりに強みを持っているのが当社の特徴」と、デンサンの柴山惟紘社長が語るように、システムも一から手づくりで開発する例が多い。経営に役立つITを目指すためにITコーディネータの育成にも力を入れ、すでに16人の有資格者を抱えている。加えて「ISO、Pマーク、ISMSの取得経験から、セキュリティを重視したシステム構築ノウハウに自信」を持っており、その延長線上に内部統制を重視した「D-Net」というグループウェア(Webアプリ)を開発した。既存のグループウェアと違って、業務を遂行するうえでの「思考のツール」を意図したため、企業のレベルや業務改革の進捗具合に応じて、どの機能(段階)からでも使い始めることができるという。新会社法の施行や日本版SOX法の行方をにらみながら開発したものだけに、今後の需要に期待を膨らませている。

 デンサンも東京支社に15人ほどの開発部隊を張り付けて受託開発や一部派遣を行うなど、もともと首都圏指向は強い。ただ、家賃などのコスト負担が大きいため、東京で受注し宮崎で開発するような国内オフショアの仕組みづくりを強化したい考えだ。

 地場独立系のオー・エム・シーは、自治体向けシステム開発に力を注ぎ、とりわけ宮崎市に売り上げの多くを依存している。同社は富士通のパートナー企業で、宮崎市と周辺3町の合併に伴うシステム統合では、地元のSOHO事業者の多くの協力を得てデータの移行作業を担当した。ただし、この作業が一段落した後は民需での売上確保が課題となる。

 同社の松山安則常務によれば「首都圏からも仕事の誘いはあるが、こちらからSEを上京させて採算がとれるものかどうか、現時点では判断できない」。これまで県外指向を持たなかったものの、「北九州や首都圏への関心は持ち続けている。いずれ外に打って出なければと覚悟している」と語る。これまで携わってきた自治体向けシステムのパッケージ化やWebアプリケーションへの転換などに取り組みながら、採算を確保できるオフショア開発を検討していく構えだ。
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