ユビキタスが日本を変える IT新改革戦略
<ユビキタスが日本を変える IT新改革戦略>20(最終回).テレワークが本格普及期へ
2006/05/22 16:04
週刊BCN 2006年05月22日vol.1138掲載
テレワークやSOHO(スモールオフィス・ホームオフィス)の概念は、すでに80年代頃から唱えられ、当初は大都市圏の一極集中・渋滞問題や、長距離通勤など労務問題の視点から取り組みが進められてきた。国土交通省のテレワーク実態調査によると、テレワーク・SOHO人口は、就労人口比率で02年の6.1%から05年には9.7%(暫定値)までアップ。総務省が調査した企業におけるテレワーク実施率は04年末で8.5%となったが、先進国の米国などに比べると低い水準にとどまっているのが実情だ。
政府がテレワーク・SOHOを少子高齢化対策の重要な施策に位置づけるようになったのは03年からだろう。少子化社会対策基本法と次世代育成支援対策推進法が成立し、これに基づいて定められた行動計画策定指針で、少子化対策として盛り込むことが望ましい対策としてテレワーク導入が掲げられた。同時期に公表されたe-Japan戦略IIでも、「2010年までにテレワーカーが就業者人口の2割となる」との具体的な目標が示され、その後、05年に策定された地球温暖化対策のための京都議定書目標達成計画(7月)や、第2次男女共同参画基本計画(12月)の中にもテレワークの普及促進が盛り込まれた。
それに伴ってテレワーク導入のための環境整備も進んできた。04年12月に総務省が「テレワークセキュリティガイドライン」を公表。厚生労働省、経済産業省、国土交通省を加えたテレワーク関連4省で、05年8月に企業向けにテレワーク導入の手引きとなる「テレワークガイドブック」を発刊。11月には産官学が連携して調査研究・普及活動を行う「テレワーク推進フォーラム」も発足した。すでに中央省庁でのテレワーク試行も始まっており、本格導入に向けた準備に取り組む環境はかなり整ってきたといえる。
民間では、日本を代表する大企業の松下電器でテレワーク導入が始まった。昨年4月に中村邦夫社長が政府のIT戦略本部本部員に就任したが、それ以前から男女共同参画による能力活用や子育て支援を目的にテレワークの検討を前向きに進めていたという。同社では、主にパソコンを使った在宅勤務と、携帯電話などのモバイル端末を使ったモバイルワークを合わせて「e-Work」と呼んでおり、今年1月に全社的にe-Workを普及させるための専門部署を設置。今年度は本格導入に向けてe-Workの勤務制度・ガイド・ツールの策定を行うことにしており、国内のグループ全社員を対象にモバイル勤務4000人、在宅勤務1000人の計5000人規模で試行を実施する。
総務省が職員18人を対象に05年度に行った2回目の試行の結果では、大きなトラブルはなく、テレワーカーの8割以上が「テレワーク勤務に参加して良かった」と回答するなど良好だったが、いくつかの課題も浮上した。「職場と自宅に資料が分散するなど管理が面倒」「部下の管理に少し問題があった」など、テレワークに適したワークスタイルや勤務評価方法がまだ確立されていないことに起因する問題である。当面は、オフィス勤務と在宅勤務とで公平な評価が難しいような業務は避け、テレワークに適した業務から導入を進めていく必要はあるだろう。しかし、団塊世代の定年退職を目前にして、その労働力を生かす方策として「シニアSOHO」も注目されている。
日本ではなかなか普及しなかったインターネットカフェも、SOHOとしても使える「複合ネットカフェ」として最近、急速に店舗数を拡大してきた。少子高齢化の進展は、日本人のワークスタイルをも大きく変えていくことになりそうだ。(ジャーナリスト 千葉利宏)
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