システム開発の効率化最前線
<システム開発の効率化最前線>11.リコーテクノシステムズ 日本の経営風土に適したシステム
2006/05/01 20:37
週刊BCN 2006年05月01日vol.1136掲載
.NETフレームワークをベースに開発
■独自開発ソフトで受注機会を拡大リコーテクノシステムズが独自に開発したワークフローシステムは「R@bit Flow(ラビットフロー)」で、2002年10月に開発に着手。3年がかりで段階的に機能を拡充し05年10月に大企業で必要とされる機能をほぼ網羅したバージョン3.0の完成にこぎ着けた。大企業向けの大規模なパッケージソフトを独自に開発するのは今回が初めて。自社ソリューションの柱の1つに育てていく方針だ。
同社は、ノーツ/ドミノの国内販売でトップクラスの実績があるが、「どうしてもノーツでは合わない顧客もある」(鶴見義明・ITサービス事業本部ITソリューションセンターWebソリューション部部長)ことから自社開発に踏み切った。これまでノーツを受け入れてもらえなかった案件を失うケースが見られたが、こうした領域をラビットフローでカバーすることで受注率を高める。
「ノーツが欲しい」という顧客にはノーツを勧められるが、「いらない」と言う顧客に対して代替提案ができなければ受注を逃してしまう。ラビットフローによって、これまで逃してきたビジネスチャンスをつかむ。
アーキテクチャは、意識的にノーツとは異なるものにした。ノーツがJava系であるのに対して、ラビットフローは.NETフレームワークを採用。ワークフローの中身についても、ノーツが“人”を基準にしているのに対して、ラビットフローは“組織”に軸足を置いた設計を採り入れた。
■1000人以上の大企業がターゲット
02年10月、独自のワークフローシステムの開発を目的に発足したワーキンググループでは、当時ノーツでは対応できていなかったウェブブラウザで表示する方式が決まった。ウェブアプリケーションが急速に増えていた時期でもあり、速やかにウェブ対応するには、技術的な見地から見てもJavaより.NETフレームワークを活用したほうがいいという結論を得た。マイクロソフトが開発に必要なツールを一通り揃えていて、生産性を高めやすいことも背景にあった。
ワークフローの中核となるプログラムをパッケージ化したのは03年7月。その1年後の04年7月にはユーザーインターフェースなどを拡張し「ラビットフロー」という商品名をつけた。中核プログラムをパッケージ化した頃から顧客向けの販売に着手しており、これまで10社余りに納入した実績を持つ。05年10月に発表したバージョン3.0では他システムとの連携機能の充実やシステム管理者機能を強化するなどした。今年度(07年3月期)は新たに10システムほどの受注を目指す。
販売ターゲットは従業員1000人以上の大企業に設定。このクラスになると何らかのワークフローシステムをすでに導入している比率が高いものの、詳細をみると「部門単位での活用が中心であるケースが多い」(鶴見部長)。依然として需要が見込める分野であることに変わりはなく、最近は内部統制の強化などで追い風も吹いている。
こうした需要に対し、全社に適用する大規模ワークフローシステムとしてノーツとラビットフローの両方を提示。顧客に選んでもらう営業を通じて受注率を高めていく計画だ。
■合議制で運営される日本企業を意識
組織を軸にしたラビットフローのアーキテクチャに対する顧客の反応は上々だ。
決裁文書や稟議書などを所定のルートで回覧して上長などの承認を得ていくのがワークフローの基本的な仕組みだが、このルートをつくるに当たって人を軸にする「属人方式」にするのか、組織を軸にする「属組織方式」にするのかで、使い勝手が大きく変わってくる。
ノーツが属人方式なのは、決裁権をもつリーダーが明確で、トップダウン的な欧米の会社組織を反映しているといわれている。
この点、日本の会社組織は合議制が多く、1人当たりの決裁権限が比較的小さいのが特徴。そのため属人方式では組織改編や人事異動のときにワークフローのルート上で立ち往生してしまう「浮遊文書」の発生率が高いとされ、合議制で運営される会社組織に馴染みにくいという指摘は以前からあった。
合議制が多い日本の会社組織を念頭に属組織方式にすることで浮遊文書の発生率を大幅に抑制。年度の変わり目など組織変更や人事異動で混乱が生じやすい時期でも、スムースな決裁が可能になった。
ノーツの販売を通じて「ノーツのよさをよく理解するとともに、日本の企業組織の運営に関する改善の余地がどこにあるのかも熟知している」(中家宏之・ITサービス事業本部ITソリューションセンターWebソリューション部2グループリーダー)ことが、ラビットフローの基本設計に大いに役立った。
開発のきっかけはノーツで取りこぼした顧客をカバーする目的であったものの、開発に当たってはノーツの販売で培ったノウハウを最大限に生かした。「ノーツのいい点、そうでない点を徹底的に研究し、ノーツと競合せずに新しい選択肢を顧客に提供できる」(中家リーダー)ようにした。
やりとりする文書のフォーマットや承認ルートなどをユーザー自らノンプログラミングで設定できるのも売りのひとつだ。
ユーザーは専門的な知識がなくても自社でメンテナンスが可能で、ベンダーへの依存度を軽減できるメリットがある。
今後の課題として、間接販売チャネルの開拓があがっている。これまでは自社の営業力を使った販売のみだったが、今後は有力SIer経由での販売を視野に入れる。こうした販売パートナーを開拓すると同時に、大型案件にも対応できるようカスタマイズ開発などを行う開発パートナーも増やしていく方針だ。
導入実績が増えれば知名度も高まり、ラビットフローの拡販に弾みがつくものと期待している。
導入が決まれば、リコーグループが得意とするコピー機やプリンタ、複合機といったハードウェアや文書管理システムなどの商材を組み合わせて提案。より付加価値の高い商談に結びつける。
(取材協力:.NETビジネスフォーラム)
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