ユビキタスが日本を変える IT新改革戦略
<ユビキタスが日本を変える IT新改革戦略>18.第3期科学技術基本計画(下)
2006/05/01 16:04
週刊BCN 2006年05月01日vol.1136掲載
「基本計画の政策目標に掲げられた『世界を魅了するユビキタスネット社会の実現』のなかで、産業の国際競争力の強化に焦点を当てたことが今回の戦略の特徴と言える」(内閣府の井澤一朗参事官=情報通信担当)。いくら国が科学技術の育成に投資しても、その成果が日本の産業力の強化につながらなければ意味がない。分野別推進戦略では、日本の情報通信産業の現状について国際競争のなかで優秀な技術を収益に結びつけることができずに苦闘している企業があることを認め、「わが国ハイテク輸出産業の一翼を担った半導体等の産業力低下は国家として看過できない状況にある」との厳しい認識を示した。
優れた技術を生かして国際競争力を高めていくのは本来、企業側の責任ではある。しかし、戦略では国主導で開発した半導体の技術を透明性を確保したうえで「量産を考慮すると、トップランナー方式で主導的な企業の下に、関連する企業が垂直統合して参加する体制も検討に値する」と企業再編も視野に入れた提言にまで踏み込んだ。次世代スーパーコンピュータ開発でも、常設の「超高性能コンピュータ戦略委員会(仮称)」を総合科学技術会議の下に設置すべきとした。かつて日本が得意としていた半導体、スパコンなどハードウェア技術も国主導による研究開発が不可欠な状況となりつつある。
一方、ソフトウェア産業も「競争力は国際的に見て低い水準にある」状態が続いていることに変わりはない。しかし、戦略で重要な研究開発課題に取り上げられたのはデバイス・ディスプレイ等領域10項目に対してソフトウェアは2項目。
「国際競争力を持つ数少ない分野のひとつ」で自動車、家電、産業機械など「わが国が競争力を持つ産業分野への貢献が大きい」と評価された“組み込みソフトウェア”と、重要インフラを含めたサービス提供にかかわるITプラットフォームを実現する“次世代オープンアーキテクチャ”である。ソフトウェア領域のワーキンググループ主査を務めた土居範久・中央大学教授が、戦略策定のプロジェクトチーム会合で「情報通信分野の戦略のど真ん中にあるべきソフトウェアの取り扱いが不十分」と訴えたほどだ。確かに半導体やスパコンに比べて見劣りする印象は否めないが、昨年12月には情報産業振興議員連盟が「ユビキタス・コンピューティング・プラットフォーム(UOP)戦略」を打ち出し、1月にはIT新改革戦略も決定。国家戦略としてIT産業の国際競争力を強化しようという機運が盛り上がっているのは間違いない。
最大の難関は、優秀なIT人材をどう確保するか。分野別推進戦略では、「次世代を担う高度IT人材の育成」を戦略重点科学技術に位置づけるとともに、戦略の推進方策としても人材育成をメインとした体制作りを進めていく方針を打ち出した。例えば、研究開発と人材育成を一体化して行う新たな産官学連携拠点を分散的に整備してネットワークを形成し、テストベッドプロジェクトなどを通じて技術交流できる環境を整える必要性を指摘。人材交流を活性化する方策としては、名実とも世界で通用する優秀な人物を海外から招聘したり、ソフトウェア競争力の高い国へ有能な人材を派遣して再び国内に呼び戻すことを提言。さらに小中高校での一貫したIT教育を推進し、人材を供給できる仕組みを作り上げることが重要との考えを示した。
「議論のなかで、IT人材を国内で育てられないのなら、有能な人材をインドなどに連れて行くしかないとの声もあったほどだ」(井澤参事官)。状況は切迫しており、危機感もIT業界から産業界全体へと広がってきたが、国民レベルでは3K職場のイメージが根強く、優秀な人材がどんどん集まってくる状況とは言い難い。国民がIT教育の重要性を認識して効果的な人材育成の仕組みを作り上げるとともに、有能な人材を引き寄せる魅力的なIT産業へと飛躍することが求められている。(ジャーナリスト 千葉利宏)
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