コンピュータ流通の光と影 PART IX
<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第53回 福岡県(2)
2006/04/24 20:42
週刊BCN 2006年04月24日vol.1135掲載
対東京ビジネスの見直しを模索 喫緊の課題は人材の育成
■人材の質の高さで勝負「2006年7月期の業績は、やや下がると見ている。しかし、だからこそ、新たなよい仕組みを作ろうというモチベーションが生まれる。膿を出して新たなビジネスの仕組みを作り上げたい」
福岡市博多区のSIer、エクシーズの浦上昭社長は、そう言い切る。売上高の県内外比は、ほぼ半々だが、地場の伸び幅が小さくなってきている。受動的にではなく、能動的に東京という大市場にアプローチをしたいと考えている。ボリュームは東京で稼ぎ、福岡では中小のエンドユーザーにきめ細かに対応したいというのが狙いだ。
東京のベンダーが必ずしも、地力に勝っているとは思えないという見方がその背景にある。「設計などの上流工程の力は必ずしも東京が強いわけではない。本来なら、福岡に持ち帰りたいような仕事も、上流がうまくいかないので持ち帰れない。それなら、こちらが上流も手がけられるようにしたい。コストはかかるが、下流を持ち帰れるし、エンジニアの自信や誇りを失わさせずに済む」(浦上社長)と考えている。
05年から、出張ベースではあるが、上流工程に対応できる要員を東京に派遣するようになった。報酬についても、思い切って優遇している。「福岡の情報サービス産業が東京の仕事に負う部分は大きいが、本来的な意味で成功しているところはわずか。成功事例を作るための先行投資と考えている。下請けしかさせないところなら、こちらから切ってもいい」と気迫は十分だ。福岡の会社ということで、知名度や信頼度にはマイナス要素もあるが、品質や人材の面ではプラスに作用する要因もある。受託事業に関しては、「エンドユーザーにも直接入れるチャンス」(浦上社長)と捉えている。
もちろん、ソリューションビジネスの売上比率も高めていくつもり。個々の受注金額は小さいが、カスタマイズやメンテナンスで、安定的に収益を上げられるメリットがあるからだ。「アライアンスで品揃えを増やすとともに、3年計画で過去の失敗などをデータベース化し、計画から販売管理・プロジェクト管理につなげるシステムを構築する。当社にとって役立つだけでなく、同業他社に販売することも考えられる」(浦川社長)ともくろんでいる。
80年設立の九州ビジネスは、この4月、専務だった大塚隆英氏が社長に昇格、新たなスタートを切った。もともと、東京の大手情報サービス企業で活動していた大塚社長は、地元・福岡に戻り、04年2月に九州ビジネスの常務に就任した。当初は、仕事の質や処遇の格差に戸惑ったと振り返る。
「受託には完成責任があるが、その域を超え、赤字に陥ることもしばしば。業績もだんだん低迷していった」。しかし、ビジネスの慣習などは容易に改められない。逆に同社のコア・コンピタンスである人事・給与システムなどの領域でも、大手情報サービス企業の侵攻にさらされた。そこで足元を見据え直し、受注までの営業活動期間を1か月に限定、効率を追求することにした。そのうえで、大手や地元の情報サービス企業との連携を図った。「特需もあったが、ここ数年の赤字は、今年1月期で一掃することができた」(大塚社長)。
■パートナーとの連携を強化
利益を確保する方法が存在することは確認できたが、そこで止まるわけにはいかない。現在、大手との差である「付加価値」をいかにつけられるかということを模索している。「ひと(大手)の褌で相撲をとるのでなく、パートナーとして扱ってもらえるようにするため」(大塚社長)だ。キーとなるのは、人材の質とみている。昨年後半から社内公募で外部の研修機関に社員を送り込んでいる。4月からの新入社員も同じように教育を充実させている。「今年度の教育費は過去の実績の3倍。計画性を持ってやれば、中小企業であってもできないはずはない」と考えている。大手情報サービス会社にイコール・パートナーとして認められる存在となって、北部九州の情報サービス産業の環境を変えていくのが目標だ。
95年設立のバイナリーは受託開発が100%で、組み込み系ソフトの開発を柱としている。橋本明社長は「営業活動も福岡ででき、収益獲得の機会もある」という。
携帯電話など通信機器関連を得意としており、その市場は拡大傾向にある。機種変更などめまぐるしい面もあるが、安定顧客からの継続的な発注があるため、「仕事に追い回されるというわけではない」という。仕事には事欠かないものの、課題は人材難だ。福岡を中心にパートナーを確保しており、新規の獲得も目指すが、「福岡は、東京ほどビジネス・ライクではない。継続的な関係を結び、信頼を勝ち取ることが重要。関東から進出してきてビジネス・ライクな手法をとったため、総スカンを食った会社もある」(橋本社長)。
中長期的には、関東地域でのビジネス展開も視野に入れている。「セットメーカーとの接点は欲しい。技術的に問題はないが、営業的には課題がある」という。現在、関東には1名を配置しているが、技術面ではメーカーも一目置く存在で、在京のパートナー企業の社員の教育なども手がけている。しかし、1人体制は本人のためにもならないことは認識している。「東京から仕事を受注するのが目的ではないが、きちんとした組織にはしていきたい」(橋本社長)と考えている。そのためには、福岡も含め少なくとも10名近い人材の確保が不可欠となるが、スキル確保の面からも容易ではない。
人材とスキルの向上を求める声が多い福岡だが、福岡県情報サービス産業協会でも、会員企業の社員のスキル向上は、課題の1つと見ている。「高度な教育は別として、会員企業が互いに講師となって運営する自主講座があってもいいのでは、という声はあがってきている」(重松孝士専務理事)という。飯塚市の福岡ソフトウェアセンターは福岡市の企業にとっては、地理的に遠い面も否めない。ビジネスチャンスの獲得とともに、協会としても大きなテーマとして認識しているようだ。
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