ユーザー事例 経営がITを変える
<ユーザー事例 経営がITを変える>4.セレコーポレーション【下】
2006/04/24 20:29
週刊BCN 2006年04月24日vol.1135掲載
ユーザー主導にこだわる
業務分析は自社で実施
中堅住宅メーカーのセレコーポレーションが4月に稼働させたシステムは、CAD図面の部品マスターから単価などのデータを拾い出せる部品点数をおよそ5倍に増やした。人が部品の点数などをいちいち数えなくても、原価計算や見積もり、部材の発注業務の自動化ができる高度なシステムだ。受注した大塚商会は本格稼働までの時間的余裕がなかったこともあり、精鋭のコンサルタントやSEを送り込みセレコーポレーションの各業務部門の担当者に業務分析を行うためのヒヤリングをすることにした。だが、セレコーポレーションにやんわり断られた。大塚商会がいくら建設業の業務知識を持っているとはいえ、「自社のことは、社員が一番よく知っている」(セレコーポレーションの山口貴載・経営企画部執行役員本部長)というのが理由だ。業務分析は社内で徹底的に行うことが、導入後のスムースな稼働に結びつくと考えた。
両社はプロジェクトの立ち上げから約3か月間、週2回のペースで打ち合わせを行った。毎回、議題を決めて作業の分担を割り振る。大塚商会は業務分析などの依頼をセレコーポレーションの担当者に頻繁に行うことになるが、本業が忙しいときは依頼した作業が遅れがちになることもあった。作業量が多く、担当者が1週間それにかかりっきりになったこともある。
顧客に依頼した作業が滞れば「仕様決定が遅れ、納期がずれ込む危険性もある」(大塚商会の大橋和志・サービス&サポート本部CADソリューションセンター受託開発課課長)だけに、一時期は発注側、受注側の双方に切迫感が漂った。
しかし、セレコーポレーションと大塚商会はこうした危機感をうまく共有することで難局を乗り切った。業務革新担当役員でもある山口執行役員が強力なリーダーシップを発揮し、大塚商会から依頼された作業の遅れを取り戻した。「大塚商会に納期を守らせるとともに、大塚商会から依頼された作業も納期どおり行う。いくら客だからとっても、出すべきものは期限どおりに提出する」(山口執行役員)という姿勢が、プロジェクトを成功に導くカギとなった。
この3年の間にCAD関連システムに投資した金額は累計約1億円。最も恐れていたことは導入した情報システムに埃がかぶってしまう状態だ。実務に即したつくりにしなければ実用に耐えられない。億単位で投資したものが、使われなければコスト回収は不可能になる。
そうした事態を回避するためにも、社内議論を徹底して行い、実務担当者が自らの業務を分析。「ITベンダーに仕様を確実に伝えることがユーザー企業に求められる資質」だと山口執行役員は考えた。
別の見方をすれば、ITベンダーが上滑りの業務分析をするよりも、ユーザー自身で実務に耐えうる仕様を徹底的に洗い出すことが費用対効果を高める原動力になっている。
担当役員がリーダーシップを発揮し、本業と並行して広範な業務分析を自ら行うユーザーは、決して多くはない。むしろ、ITベンダーに業務分析を任せるケースが一般的だ。ITベンダーが作業当たりの時間を割り出し、ITを導入することで何分の短縮が可能かを分析。これをもとに従業員の給料から逆算して年間どれだけのコスト削減が可能かなどを提示する。投資回収の道筋を立てれば、投資を促しやすい。
しかし、ITベンダーができるのはここまで。導入したシステムを実際に動かして当初の設計どおりに活用し、投資分を早期に回収して利益を出すのはユーザーの役目だ。セレコーポレーションはこのことを胆に銘じて、大塚商会と密接な連携を組むことでプロジェクトを完成させた。(安藤章司●取材/文)
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