コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第52回 福岡県(1)

2006/04/17 20:42

週刊BCN 2006年04月17日vol.1134掲載

 九州経済の中心は福岡市。しかし周辺地域は、かつての産炭地としての繁栄の面影もなく、疲弊しつつある。ソフトウェア開発となると、福岡に立地する企業でも首都圏の下請けのウエートが高く、九州全域を含めた地域ニーズに活路を見出すことは難しい。ITニーズ開拓に向けて福岡県もSOHO、中小企業支援などに乗り出している。(光と影PART IX・特別取材班)

「石炭」から「IT産業」へ 九州のソフト人材供給拠点を目指す

■中小企業IT化に、まず電子商取引サイトを活用

 福岡県はオープンソースをベースにした電子自治体構築や地域情報化では先進的な取り組みを行っている。しかし、SIerなどを含めたIT産業支援策となると、地域情報化ほど熱が入っているようには見受けられない。むしろ地域経済活性化のために、中小企業やSOHOの情報化推進の政策に熱心だ。地域企業のIT化が進む過程で、地元SIerのビジネスチャンスが広がる期待もある。

 中小企業などのIT化推進のきっかけになると位置づけられているのが、ウェブサイトの「電脳商社」。福岡県中小企業振興センターが2000年にスタートさせたもので、県内企業を中心に1万4500社の企業情報が検索でき、さらに電子商取引サイトの受発注企業検索では、県内の製造業約2600社の情報を得ることができる。これら企業同士の商取引支援だけでなく、個人向け商品販売の「よかもん市場」も運営。BtoBからBtoCへと地元中小企業の活性化をITを活用して推進する。同センターの渡辺和幸・情報支援グループ経営情報チームマネージャーによれば、この電脳商社には現在、「月間300万ページビューのアクセス数がある」としており、ビジネスの場としての機能を提供できていると自負する。

 ただ、企業のITに対する関心はまちまちで、「企業経営にとってIT化がどれほど欠かせないものであるかをもっと浸透させる必要がある」(赤嶺勇司・福岡県商工部商工政策課組織・情報係長)という。電脳商社に登録する企業は多いが、それでも県内企業全体からみれば1割程度。インターネットでの情報発信は、企業経営のIT化を進めるひとつのきっかけとして活用したい様子だ。

 経済産業省九州経済産業局の田上哲也・地域経済部情報政策課長が、「九州企業のIT化を促すために、セキュリティなどでより実践的なセミナーを企画している」というのと同様に、福岡県でも経産省が行うIT化政策である「IT経営応援隊」を活用して、県内企業のIT化を促していく考えだ。

 渡辺マネージャーは、「IT投資の失敗事例もあり、IT化に消極的な企業も少なくない。そうした企業にどのようにIT化のメリットを気づかせるか」という点に苦労するという。そこで、SIerや中小企業診断士など「ITコーディネータ」の有資格者を活用して、ベンダーと中小企業を結びつける方針も打ち出している。「IT研修だけでなく、具体的に中小企業経営のIT化のメリットを見出す」(赤嶺係長)ことがまず重要というわけだ。そして「その成功事例としてよかもん市場がある」と、自信をみせる。参加している企業にはチャンスが増えた、というわけだ。

■先端技術講習を“東京料金”で提供

 インターネットを活用して地元製造業、商業を活性化すれば、それだけ地元のITニーズが拡大する。しかし、そこにIT人材が確保されていなければ、ビジネスは東京の大手・中堅クラスのベンダーに流れる。IT人材の育成も、地元企業のIT化と関連する施策だ。

 福岡県は60年代まで石炭産業が大きなウェートを占めてきた。それが斜陽になり、炭坑地域は、それを補償する政府の産炭地支援策でなんとか命脈を保ってきた。石炭にとって代わる産業を育成する必要がある。

 かつて石炭産業で栄華を誇った筑豊地域。その中心である飯塚市は、文字通り火の消えた石炭産業に代わり、IT産業の誘致を進めてきた。九州工業大学や近畿大学工学部が、郊外のハイテク団地である「飯塚トライバレー」にキャンパスを構えており、92年設立の第3セクター、「福岡ソフトウェアセンター」も同地域に立地している。出資しているのは福岡県、飯塚市のほか、福岡の地方銀行各行、九州電力やJR九州、西日本鉄道、西部瓦斯などの地元大手企業、国内の大手ITベンダー、地元SIerなど錚々たる顔ぶれ。設置の目的は、IT人材の育成だ。

 福岡ソフトウェアセンターの牛島久三・事業推進部長は、「常に最新のソフト技術にアップデートし、比較的安価な“東京料金”で福岡県内を中心に優秀なソフト技術者の供給を担ってきた」とこれまでの経緯を語る。世界的なIT企業との連携も進め、04年度まではサン・マイクロシステムズと提携し、これに福岡県の助成も受けて地元企業や学生に対してJavaの初歩から高度技術習得まで体系的な教育を行った実績もある。

 “東京料金”というのにはワケがある。「どうしても最新技術というと東京になる。九州の企業が東京で研修を受けるとなると旅費も発生するし、どうしても高い出費になる」(牛島部長)ことから先端の技術習得には消極的になりがち。東京に行かなくても、同じ料金で研修を受けられれば企業の負担は少なくて済む、というわけだ。

 問題は飯塚市という地理的環境が、福岡市中心部から高速バスでも約1時間と決して近い距離にはないこと。しかし、講習には「大手IT企業が進出している福岡市の百道地区で行うようにカリキュラムを組んでいる講座もある」(牛島部長)と、要望に応えて企業が受講しやすい工夫もしている。牛島部長は、「これまで県外から講習生を受け入れたこともある。今後、もっと県外からの受講者を増やしていくだけでなく、定常的に大学の単位になる講座の開設などバリエーションも増やす」と、福岡県にとどまらず九州全体をターゲットにしたIT人材供給拠点を目指している。
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