ユビキタスが日本を変える IT新改革戦略

<ユビキタスが日本を変える IT新改革戦略>14.電子自治体EA事業

2006/04/03 16:04

週刊BCN 2006年04月03日vol.1132掲載

 総務省が検討してきた自治体EA(エンタープライズ・アーキテクチャ)の手引書が完成し、2006年度から地方公共団体への導入が本格的に始まることになった。埼玉県川口市、福岡県北九州市、岩手県奥州市(旧水沢市)で実際に行ったEA策定作業の結果に基づいて導入方法をまとめたもので、基礎編、導入編、実践編、資料編などで全体を構成。細かな事例を含めた完全版は(財)地方自治情報センター(LASDEC)のホームページを通じて公開することにしており、電子自治体ビジネスに携わるITベンダーにも重要な資料として活用されそうだ。

 総務省が04年4月に立ち上げた「電子自治体のシステム構築のあり方に関する検討会」(座長・須藤修東京大学大学院教授)では、03年度からスタートしていた「共同アウトソーシング」に加え、電子政府で導入が始まっている「EA」と、国と地方との業務連携を可能にする「データ標準化」の3事業を推進してきた。共同アウトソーシングでは、03年度に電子申請受付など3システム、04年度は財務会計、統合型GIS(地理情報システム)など6システム、05年度には住民情報関連業務、被災者支援など4システムの計13の成果物がLASDECプログラムライブラリに登録されている。06年度も職員認証、電子決済、施設予約、国民健康保険などのシステム開発を進めるほか、これらのシステムの導入を促進するため専門家や技術者派遣などの支援事業を実施する計画だ。

 データ標準化は、05年度までに国が地方に対して調査やデータ照会を依頼・回答する業務を自動化するシステムを構築する「国・地方連携事業」に必要なXMLタグ・スキーマの策定作業が終わった。06年度は、共同アウトソーシングなどに必要なデータ標準化を引き続き進めるとともに、国・地方連携事業のシステム設計・開発に着手して08年度の本格運用を目指す。

 今後は、共同アウトソーシングやデータ標準化の成果物を活用して各地方公共団体が電子自治体システムの導入を本格的に進めることになるが、そのガイドラインとなるのが「自治体EA─業務・システム刷新化の手引き」だ。基礎編では「電子自治体は、従来の効率の悪かった業務や割高だった電算関連投資を見直し、低いコストで質の高い住民サービスを目指すものなのです」と明記したうえで、EAを組織全体を通じた業務・システムの最適化を図る設計手法として紹介した。

 導入編、基礎編は、川口市の約870人の職員で実際に行ったEA策定作業で作成した図表や状況を記録した日誌などの実例を引用しながら導入方法や作業方法を解説している。資料編には、川口市が行った業務分析の結果を、北九州市と旧水沢市の職員が業務の相違点などを評価し、その成果を反映した全国的な業務・システムの標準化を目指した『参照モデル(総務省標準第1版)』が加えられた。

 自治体EAの策定で重要な役割を果たした川口市の岡村幸四郎市長が、昨年12月の検討会に自ら出席して業務改革に取り組む考えを披露したことがある。首長自らがEAの重要性を理解して先頭に立って推進することの大切さを強調した。「官尊民卑や前例踏襲の意識を拭い去り、顧客満足度を高め、コスト意識を持つ」─岡村市長のように首長自らが意識改革の旗を振ればEA策定作業もスムースに進むと思われるが、全部の首長が同じではないだろう。業務システムの導入・運用経費のデータなどもうまく活用しながら、すべての地方公共団体でのEAへの取り組みを積極化させられるかが、今後の電子自治体ビジネスのカギを握っているといえそうだ。(ジャーナリスト 千葉利宏)

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