視点

電話時代にとらわれるメディア

2006/03/27 16:41

週刊BCN 2006年03月27日vol.1131掲載

 総務大臣の私的諮問機関「通信と放送のあり方に関する懇談会」(座長・松原聡東洋大学教授)が精力的に議論を続けている。

 通信側には、ブロードバンドIPマルチキャストでテレビと同じような放送サービスを楽しめるようになったのに、著作権法上の制約などで自由にテレビ番組が再送信できないという事情がある。放送側には、地上デジタル放送の電波が届かない地域で、通信設備を利用して送信できれば、設備投資負担が軽くなるという事情がある。双方にメリットがあるのだから、懇談会の議論は融合を阻害している法制度の問題に関して議論するものだと思っていた。

 2月21日に開かれた懇談会の後、一部の新聞は1面で「(同懇談会の議論は)NTT解体を視野」と報じた。持ち株会社の下、長距離、地域を分割した10年前の再編を見直すというのである。前日の懇談会の後、松原座長が「いまのNTT法のままでいいという意見は皆無だった」というブリーフィングをしたことが曲解されて、記事になったらしい。翌日、情報通信政策フォーラム(ICPF)のシンポジウムに招かれて講演した松原座長は「一部報道には誤解がある」と説明、「10年前のスキームはIP時代を想定していなかった。固定と携帯が融合するFMC時代にバラバラにしていいのか」と述べ、NTTの資本分離解体論を否定した。

 10年前から、「インターネット時代のいま、時間と距離で料金を決める電話時代の発想で、再編していいのか」という声はあった。それを押し切って郵政省(当時)は再編を進めた。10年たって政府側の認識はようやく時代に追いついた。だが、メディアはいまだに当時の再編論議の図式にとらわれたままである。

 NTTの光ファイバーを本体から分離し、競争事業者も平等に利用できるようにすべきだという論議が続いているためだと考えられるが、この問題についても松原座長は「ブロードバンドは光だけではない。電力線通信(PLC)や無線のWiMAXやUWBもある。民主導の公平で公正な競争環境を整備することが大事だ。光ファイバー網を建設する独占特殊会社は非効率になるから作らない」とはっきり否定した。

 米国で通信を独占していた旧AT&Tが分離分割されて22年。7分割された地域会社は長距離会社も飲み込んで、いまや2社に統合されようとしている。メディアはいつまで電話時代の古い概念にとらわれ続けるのだろうか。
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