コンピュータ流通の光と影 PART IX
<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第48回 新潟県
2006/03/20 20:42
週刊BCN 2006年03月20日vol.1130掲載
相次ぐ自然災害のハンデを克服し地域の市場拡大に乗り出す
■大地震の経験もビジネスの基盤に05年末からの豪雪で一時は4メートル以上の積雪を記録した新潟県津南町。そこに隣接する十日町市郊外のスキーリゾートに、SIerのオスポックがある。高原にあるために市街地より積雪量が多く、同社までの道筋は高い雪の壁にさえぎられて周囲の景色を見ることもできないほど。
「夏は過ごしやすい所ですが、今回の豪雪には痛めつけられた」と田稔社長は降り積もる雪にうんざりした表情。社員の足は自家用車。その駐車場や会社までの道路の除雪の費用が必要なうえに、あまりの雪の深さに駐車場も全員の分を確保できず、「今冬は通勤用のバスをチャーターしている」という。雪国ならではの苦労だろう。
オスポックはもともと、十日町市の電算業務や市内の繊維産業などの受託計算を行ってきた。それだけに地元密着度も高い。市町村合併によるシステム統合が一段落しつつあるなかで、「今後、オスポックの特徴やノウハウをどう生かしていくか」ということに田社長は腐心している。「下請けであることが悪いという思いはない。大手ベンダーからの受託業務で仕事をしながらスキルを高めるというメリットもある」という田社長だが、「ただしビジネスが一極集中するのは避ける必要がある」と地元のビジネスとそれ以外のバランスが重要だと力説する。
新潟県は南北に長い。十日町市はそのなかでも南寄りにあり長野県に近い。こうした地理的環境について田社長は、「県内は北部の下越地方、中央部の中越地方、さらに南西部の上越地方に分かれるが、県内企業が連携するというのはこれまでなかった」という。しかし、ソフト開発ビジネスが首都圏一極集中の様相を呈し、さらに企業競争が激しくなる状況下で、「オスポックと柏崎市のカシックス、長岡市のNS・コンピュータサービスの3社で連携することを検討」し始めた。
NS・コンピュータの岡本尚武取締役第1システム部長も、「同じ中越地方だが地理的な環境は異なり気候も違う。しかしそれぞれ自治体システムでのノウハウがありIDCを持っているなど共通点もある」とし、各社のIDCの有効活用など、協力するチャンスはあると見ている。
NS・コンピュータの親会社はメーターなどの自動車部品メーカーである日本精機。日本精機のコンピュータシステムの運用でスタートした企業である。04年9月1日にIDCの稼働を開始した。それから約1か月半後の10月23日に大地震が中越地方を襲った。しかし、「IDCにはまったく被害がなかった。震度6強の地震を経験した世界で唯一のIDC」(岡本取締役)と、その堅牢性を実証した。ただ、「なかなかこれがセールスにつながらない」のが残念そう。災害に強いことはわかっても、今回の豪雪のような地理的要因が、ユーザー心理に影響している面もありそうだ。
■県は地元IT企業からの調達を試行
新潟駅周辺にはソフト開発会社が多い。南口地域は市街地開発が進み工業団地なども造成された。インテリジェントシステムは、その地域にあるソフト開発ベンチャーだ。中小の工作機械メーカー向けなど中心とした生産管理システムを独自開発している。「これからは営業力をつけないといけない」と小林和郎社長。ウェブ経由での問い合わせもあり、九州などにも顧客はいる。しかし大々的に営業活動を展開するだけのマンパワーが備わっていない。
昨年10月にはマイクロソフトのエクセルと連携できる伝票作成システム「エクセルデン助」を開発し、このほど販売開始した。技術開発型のベンチャーであり、このエクセルデン助も「もともとはCADの開発で得たノウハウを活用したもの」(大田達之開発部ゼネラルマネージャー)だとのこと。「複数枚の地図や設計図などを結合するときの位置合わせの技術を応用して、画像として取り込んだ伝票の上にエクセルのデータを貼り込めるようにした」のだという。小林社長は、「県外からの問い合わせも増えている。ある程度増えてきたら販社の開拓にも乗り出したい。まずは3年後までに3000本の販売を目指す」と新事業の開拓に意欲的だ。
「新潟市を中心に顧客開拓を進める」というのは中小の流通業向けシステム開発を強みとするシアンスの野口一則社長。その理由を、「ユーザーが遠方にいては十分なサポートができないから」と説明する。中小企業での情報システム活用が進まないなかにあっても、「中小の流通業では現場の責任者イコール経営者。根気よく説明すれば納得してもらえる」と地域密着の戦略に自信をみせる。
同社の場合、経営者から直接ヒアリングし、最適なコンサルティングやシステム構築を提案する。その提案も有償のサービスとすることで、むしろ信頼感を得ていると野口社長は話す。「下請け中心の経営はしない」と断言する野口社長だが、下請けすべてを否定するわけではない。ただし「首都圏に社員を派遣するような受注はしない。あくまでも新潟に持ち帰ってできる仕事に特化する」と、線引きは明確だ。
県では地元のIT産業振興のために、「にいがた産業創造機構(NICO)」を通じてIT人材育成を図ってきた。さらに来年度からは、県の発注するシステムで3000万円以下の案件に限って地元企業に発注する試みを行う予定だ。NICOの高畑悦武産業創造グループ情報戦略チームチーフは、「まだ具体化しているわけではないが、県内企業によるコンソーシアムに発注し、OJTのような形で進めたい」という。これまで大手ベンダーの独壇場だった県のシステムに地元企業が参画することで、市場の拡大やスキルアップにつなげる考えだ。
そうした施策を推進するために、県では05年10月に民間から情報企画監を登用した。東芝ソリューション出身の松下邦彦新潟県総合政策部情報企画監は、「県内の中小SIerは県のシステムなどを受注できる力がなかった。来年度はそうした企業が受注できるような仕組み作りを進めるのが私の役目」と語っている。
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