コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第47回 富山県

2006/03/13 20:42

週刊BCN 2006年03月13日vol.1129掲載

 全国一のアルミ産地として知られるように、日本海側では屈指の工業集積を誇る富山県。地震や台風といった自然災害も少ないため、エレクトロニクスをはじめバラエティに富んだ製造業が事業展開しているが、これらを支える基盤としてIT産業への期待も大きい。(光と影PART IX・特別取材班)

地域経済の好調を追い風に事業機会の拡大狙うIT企業

■新産業の柱としてITに期待

 富山県は現在、「活力とやま」をキーワードの1つとし、新たな産業の育成・創出に動き出している。バイオや海洋深層水と並んで、新産業の柱に位置づけられるのがIT。半導体やデバイスなどIT関連産業の集積や有力なシステム開発・ソフト開発企業が立地するという強みをさらに増進させるとともに、県内企業のIT化で「2008年までに電子商取引を倍増させる」という方向性も打ち出している。ITの活用・導入をいっそう推進していく方針だ。

 「情報サービス産業だけを切り離して特別に振興施策を展開しているわけではないが、施策の対象には含まれる」とは、富山県商工労働部商工企画課の井上典子主事。これまでに、人材育成やIT関連産業振興支援などの機能を有する「富山県総合情報センター」、マルチメディアコンテンツ関連産業の振興を図る「富山県ITセンター・マルチメディア情報施設」などの拠点整備は完了した。財政状況は厳しいものの、電子商取引の促進を目的としたセミナー開催やソフト開発用設備も対象とした新産業・ベンチャー創出資金などは、06年度も継続・拡充が図られる見通し。

 また、05年度から「とやま起業未来塾」がスタートし、ベンチャー企業の成長段階に合わせた支援制度も整備された。IT企業も含め、ベンチャー育成のインフラが整った。

 一方、既存の情報サービス産業も、経済に活性化の兆しが出てきたことで、新たなステージを迎えようとしている。

 富山を代表する企業の1つである不二越を親会社とする不二越情報システム(宮本俊行社長)は、親会社向けと地元有力企業向けを事業の中心に位置づける。自動車産業などの好調を受け、親会社はロボットや部品などで業績を大きく伸ばしており、投資意欲も高い。

 同社の山本浩詞取締役開発営業部長は、「設備投資中心だったが、一昨年後半から情報システム再構築にも乗り出している。部品部門の対外接続などもスケジュールに上がってきた。カスタム性が高い商品で、情報化に馴染まない面もあったが、今後はスピード化・効率化に向け、システムの中身を詰めていく」と語る。当面は親会社向けに戦力の7割を投入していく方針。さらに地元有力企業においても、親会社と同様に、システム再構築の動きも出てきているという。ホームグラウンドの環境は、いたって良好。05年11月期は、ハード販売で売り上げを伸ばしたが、今期以降はソフトの比重が高まる見通しだ。

 もちろん、新たな市場の開拓にも着手している。これまで、本格的に活動していなかった石川県や福井県などだ。「親会社でのノウハウがあるので、機械産業にアプローチしていく方向。電機や自動車のようにロットが大きくない分、効率化が進んでおらずニーズはある」(山本取締役)とみている。東京のように市場が大きくても、競合社もケタ違いに多いところよりは、収益性が高いとの判断だ。

■県外市場も視野に攻めの姿勢

 90年設立の日本オープンシステムズ(略称JOPS、大蔵政明社長)は、当面の狙いを東京に定めている。「富山では後発だし、県内の市場規模も大きくないため、東京進出を図った」と、大蔵社長。約20億円の売上高の65%はシステム開発で、半分は東京の仕事だ。

 「ウェブソリューションには実績があり、大手ベンダーからも評価してもらっている。今後はエンドユーザーの比率を高めながら、東京の市場開拓に力を入れていく」(大蔵社長)という戦略だ。

 その一環として、組み込み系システムの開発にも着手した。「収益性はよくないが、ウェブソリューションとの連携も図れ、拡大する市場でもあるので、押さえておく必要がある」との考え。同社では、システム検証も事業の柱となっており、開発から検証までの一貫サービスが提供できることを強みに、差別化を図りたいとしている。

 もう1つの武器は、システム開発とハード・ライセンス販売の中国子会社。中国に進出した日系企業向けが中心だが、オフショア開発にも着手し始めた。「まだ、利益に貢献するほどでなく、オフショアは長い目で見る必要がある。しかし、現地法人とのビジネスを通じて、日本の本社や拠点とも接点を持てるようになった。東京以外の企業も多く、新たなチャネルになる」とみている。

 富山県西南部、散居村で有名な砺波市に本社を置く日本ソフテック(窪田育夫社長)は、受託開発で事業を拡大している。売り上げの県内外比は、地元4に対し、東京が6。窪田社長は「当面は地元のエンドユーザー開拓よりも、東京を重視する」という。

 同社ではここ数年、退職者が出ていない。従業員数も、昨年100人を超えた。それでも人材が足りないのだ。

 「人の確保さえできれば、東京の大手から受託開発の仕事は入る状態。設計は東京、作り込みは富山という形で事業展開してきたが、当面は受託を拡大するため、早く東京を30人体制にしたい。そのためには富山の人員確保も必要。教育も引き受けることを前提に、他産業の経営者に情報サービス事業を立ち上げてもらう“パートナー作り”を進めている」(窪田社長)ところだ。昨年は2社作った。今後も毎年2社程度作っていく必要がある。しかし、他産業は不況が続いたためか、「仕事があるのに、人が足りない」という状況を信じてもらうのは至難の業だ。

 「海外に進出するつもりはない。契約制度ではなく、正規雇用で質の高い人材を確保することが、会社の信頼を高める面でも好結果を生む。数年後には、人を集めたところが勝ち、ということになると思う」(窪田社長)と判断している。雇用という形で、地元に利益を還元することも、信頼感醸成には重要と考えているようだ。
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