システム開発の効率化最前線
<システム開発の効率化最前線>9.富士ソフトABC ナレッジ共有プラットフォーム立ち上げへ
2006/03/06 20:37
週刊BCN 2006年03月06日vol.1128掲載
連携を緊密化して開発効率向上を目指す
■最新フレームワークで技術情報を共有.NETフレームワークをベースとしたビジネスがここ1-2年で急拡大している。もともとJavaをベースとしたソフト開発案件が多い富士ソフトABCだが、.NET領域におけるソフトウェアの徹底した部品化や開発ツールの使いこなしによって、生産効率を大幅に高めたことがビジネスの拡大につながった。
.NETとJavaのどちらのプラットフォームでソフトを開発するかは、コストや納品までのリードタイム、顧客の要望などを考慮して決める。オープンソースソフトウェア(OSS)やフリーの開発ツールなどライセンス料がかからない部材を活用しやすいJavaに対し、.NETはマイクロソフトへのライセンス料が発生する部材が多い。
ただ、開発リードタイムやソフトの部品化、システム全体の導入にかかるコスト面からみれば、.NETが「有利であるケースが増えている」(原田賀章・IT事業本部エキスパートハウス.NET室室長)と判断している。開発環境がマイクロソフト1社で統一されており、揺らぎがない点が生産効率を高める重要な要素になっているという。マイクロソフトの弱点ともいえる部分が、逆に強みに転じている格好だ。
マイクロソフトの開発ツール「ビジュアルスタジオ」が、事実上唯一の開発基盤であり、複数の開発基盤が併存するJava環境とは大きく異なる。部品化においてもビジュアルスタジオで動作することだけを念頭に置けばよい。ウィンドウズやオフィスの操作性と共通した部分があることも有利に働く。
昨年末に公開された最新版のビジュアルスタジオ2005は、.NETアーキテクチャー基盤の新バージョンである.NETフレームワーク2.0に対応している。これを受けて富士ソフトABCでは、新規案件を中心に.NETフレームワーク2.0ベースへ移行する準備を進めている。来年度(07年3月期)には「移行が本格化する」(菅沼嘉毅・IT事業本部部品センターセンター長)見通しだ。
開発環境が変わるタイミングで、開発陣の情報共有ネットワーク「ナレッジ共有プラットフォーム」(仮称)の強化も検討している。新バージョンでの実績やノウハウをいち早く蓄積するには、技術者の密な連携が欠かせないからだ。
■情報交換ツールをふんだんに盛り込む
同社は、北海道から九州まで全国に拠点を展開し、今年度(2006年3月期)連結売上高は前年度比約12%増の1865億円を見込むなど業界大手の規模を誇る。一方で組織が大きいだけに、ややもすればノウハウの蓄積や体系化が思うように進まないことが課題になっていた。新しい情報共有ネットワークは日常的な情報交換のみならず、ソフトウェア部品や開発・導入時に必要なチェックリストに至るまでさまざまな要素を盛り込んで連携強化を狙う。
具体的には、日記風ホームページの「ブログ」や短いメッセージをリアルタイムで交換できる「インスタントメッセージ」、会員制で既存会員の紹介のみによって入会できる「ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)」など、主流になってきた情報交換ツールをふんだんに盛り込む。ネットワーク上にはソフトウェア部品も登録し、「ひとつの部品に対して、みんなで意見を出し合ったり、手直しできる」(原田室長)ようにする予定だ。社内のコンセンサスが得られれば、来年度上期中にも立ち上げる方向で検討している。
従来から同社では、人事情報や一般的な情報共有システムは存在していたが、技術者がSNSなど閉じたコミュニティでより突っ込んだ意見交換ができる仕組みはなかった。新しいテクノロジーに関して、純粋な議論を深めていくことで技術習得のスピードが早まり、ブレーンストーミングを通じて新しいソリューションの発案に結びつくと期待を寄せる。
ソフトウェア部品に付随するナレッジ(知識)の拡充にも力を入れる。部品を使って成功した過去の事例や逆に誤った使い方をしてミスをしてしまった教訓などさまざまなナレッジを蓄積していく。失敗しないためのチェックリストの作成や過去の構築事例から見積価格を迅速に導き出すガイドラインも拡充する。部品を効率よく使って納期の短縮や見積価格を低く抑えられれば、競合他社とのコンペで勝率向上に結びつく可能性もある。
■ナレッジを集約し生産効率を高める
ネットワークの構築に当たっては、.NETフレームワーク2.0上にナレッジ共有プラットフォームを乗せる形にする。自ら率先して.NETフレームワーク2.0を採用することで、開発実績を積む考えだ。顧客企業は.NETフレームワーク2.0での開発実績の有無を重視するため、まずは社内システムで実績を積み、これをモデルケースとして顧客企業に公表することも検討している。
ウィンドウズサーバー2003の登場以降、ウィンドウズに対する信頼性が格段に向上し、.NETフレームワークを使った基幹業務システムの構築案件が急増している。ビジュアルスタジオ2005と.NETフレームワーク2.0が投入されたことで、ソフト開発ベンダーの生産性向上に向けた競争がより一層激化していくのは必至だ。
納期や開発コスト、開発者やユーザーの操作習熟までのトレーニングコストなど「ライセンス料の支払い分を含めてもトータルで見た場合の割安感は増している」(原田室長)と、Javaに比べて優位性が目立ち始めている今、早期にナレッジ共有プラットフォームを立ち上げ、新しいテクノロジーのノウハウを効率的に吸収していくことで競争力強化を図る。
富士ソフトABCでは、早くからソフトウェアの部品化に取り組んでおり、すでに約7000件を部品センターに蓄積してきた。また、.NETやJavaといった先端テクノロジーの豊富な知識を持つ技術者の育成にも努めており、一定レベル以上の技量を習得した技術者集団を通称「匠(たくみ)」部隊と位置づけて知識の集約に努めている。匠たちは、日々の開発業務に役立つ部品を評価したり、汎用性を持たせてより多くの人に使ってもらえるよう手直しすることもある。
顧客企業に近いところで作業をする現場のSE(システムエンジニア)は、日々の作業に追われがちだ。匠部隊や部品センターが最前線のSEを支援する体制を作り上げたことで、現在ではほぼすべての技術者が何らかの形で部品を組み合わせたり再利用して生産性を高めている。今後はナレッジ共有プラットフォームなどを活用して、だれがどういうノウハウを持っているのかというナレッジの集約を進める。従来の部品化の取り組みに加えてナレッジの集約化も進めることで生産効率をさらに高めていく方針だ。
(取材協力:.NETビジネスフォーラム)
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