コンピュータ流通の光と影 PART IX
<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第43回 三重県
2006/02/13 20:42
週刊BCN 2006年02月13日vol.1125掲載
ワンストップ支援体制で個性的なベンチャー育成
■オープンソースを三重で産業に三重県は、中小企業の価値創造を通じて、県内で有望企業の育成を図っている。ベンチャー企業支援は、その柱の1つとなるもので、三重県産業支援センターを中核として、「ワンストップ支援」の体制を整えている。事業分野などのターゲットは、あえて絞らず、技術やビジネスモデルの「確かさ」を見極め、様々な階層において支援策を提供している。
もっとも、三重県農水商工部産業支援室の佐伯雅司主幹は「成長性という点から結果的にIT関連も多くなっている」という。2000年度からスタートしている「ベンチャー総合補助金制度」では複数の企業が交付対象となっており、04年に創設した総額10億円の「みえ新産業創造ファンド」では投資対象の25%がソフト開発関係だ。
こうした三重県によるベンチャー支援制度を活用し、独自性を発揮するようになった企業も出てきている。
00年設立のアイズ(伊勢市)は、オープンソースソフトウェアの組み合わせによるウェブアプリケーションの開発に強みを持ち、オフィス業務支援などの分野においてプレゼンスを高めてきている。
「三重県内の民間企業では、システム担当者などもオープンソース系はオーソライズしておらず、公共部門を除くと県内で売り上げはほとんど立たない」と川邊浩社長は苦笑する。実際、売り上げの県内外比は5対5だが、これは公共部門からの受託開発は案件あたりの規模が大きいため。しかし、件数ベースで見た場合、県外企業との仕事が9割に達し、相手先のほとんどが大手企業。技術力は、県外において高く評価されているということだ。
同社が開発した無償のウェブブラウザとPDFリーダーの組み合わせによる「電子帳票&ウェブプリンティングシステム」は、クライアント側のソフトウェアライセンスを含め、大幅なコスト効率化を可能にする。これまで公共部門で旅費計算システムとして実績をあげ、企業向けにもパッケージ化されている。
「技術が認められ、大手企業からオープンソース系の開発を任されるなど、自信が出てきた。オープンソース系は、全国的にも少ないため、三重県で産業として確立させたい」(川邊社長)と語る。
同社は、みえ新産業創造ファンドから2回に渡り、計5000万円の投資を受けた。これも技術を評価された結果だが、資金調達が円滑になり、新技術開発も順調に進んだ。「具体的な内容は言えないが、大規模なシステムを効率的に管理でき、高いセキュリティ性能を確保できる技術。これまでに製品化したものも、実は新しい技術の構成要素の1つ。基本開発はほぼ完了し、今後1年で商品開発に移る」(川邊社長)計画だ。
04年7月設立のコンテンツアイディアオブアジア(略称・CIA、桑名市)は、今年度のベンチャー総合補助金制度から5000万円の補助金交付を得た。事業の中心は、携帯電話と2次元・3次元コードを組み合わせた新しいメディアの開発だ。
デザイン性など、1次元バーコードや2次元QRコードの欠点を解消したCLコードは、実用化段階にきており、現在、開発を進めているのは、3次元のPMコードだ。
2次元コードをカラーで階層化し、大容量の情報を格納する。紙に印刷されたPMコードを携帯電話のカードリーダで読めば、音楽が聴けたり、動画を見ることができるというイメージ。「60秒から120秒の動画を格納できる低容量のものはほぼ完成している。IP接続型の大容量については、理論上1236ギガバイトを格納できる」とは小野田達哉社長。来年中の商品化を目指して開発中だ。紙媒体のコンテンツ拡充や広告など、用途は幅広いが、「従来の光学メディアにデータを保存するのではなく、紙に印刷して保存・読み出す新たなメディアとする」(小野田社長)ところまで見据えている。
公的な補助金が呼び水となって、同社の資金調達は順調。ただし、人材が不足していることは事実だ。昨年、四日市の三重ソフトウェアセンターや岐阜県大垣市の国際インキュベートセンターに拠点を開設したが、「パートナー探し」との意味合いもあるようだ。
■隣接県や大都市で事業獲得目指す
ベンチャーだけが活発なわけではない。67年設立で、三重県の情報サービス産業の草分け的存在である三重電子計算センター(津市、小柴眞治社長)も、新たなビジネスチャンスの獲得に動き始めている。
売上高の7割を占める自治体や公共関連部門は、これまで県内を対象にしてきた。しかし、合併で自治体数は大幅に減少した。「総合住民情報システムとして培ってきた当社のノウハウを他県にも展開していく」とはソリューション事業本部長の植山宗一常務。県内の自治体に対し、きめ細かな対応をしてきた実績があり、大手ベンダーとの競合があっても、対抗できる地力はあるとの判断だ。
当面のターゲットとなるのは、滋賀や奈良、和歌山といった隣接県となりそう。 もちろん、既存の県内自治体についてもシステムの運用受託など、サービスの質的向上を図っていく方針。
一方、民間部門の拡大には、経営資源も積極投入する。1月から新たなIDCの運用を開始した。コスト面の優位性などを武器とし、事業拡大を目指す。
また、大都市圏でのビジネス獲得にも力を入れていく。派遣業務を中心とする東京や名古屋の事務所に、開発案件が持ち込まれる事例も少なくない。
「派遣の需要自体があり、その周縁の開拓も可能。特に東京については、中途採用のほか、来年からは新卒採用も行い、部隊を整備したい。昨年開設した名古屋事務所は、顧客獲得だけでなく、アライアンスの相手を見つける意味合いもある。アライアンスによって、質・量とも当社のキャパシティを広げ、民間に対しても独自性を発揮できる体制を目指したい」(植山常務)としている。
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