コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第42回 岐阜県(2)

2006/02/06 20:42

週刊BCN 2006年02月06日vol.1124掲載

 「県内に就職先がなければ、若者はどんどん名古屋や首都圏に流出してしまう」─岐阜県情報産業協会会長で地元の有力システムインテグレータ(SIer)、電算システムの宮地正直社長は危機感をあらわにする。「優秀な人材はむしろ東京の大手に就職する」というのは地元企業や行政関係者に共通の問題意識。就業チャンスの創出だけでなく、官民あげて「人材育成」と叫ぶのもそうした理由があるからだ。(光と影PART IX・特別取材班)

人材不足に悩むソフト企業 ベンチャー育成と雇用創出へ

■金融機関と共同で融資サービスを開始

 ソフトピアジャパンはこのほど、特別行政法人の情報処理推進機構(IPA)、十六銀行、大垣共立銀行、岐阜信用金庫の地元金融機関3行とソフト産業振興、中小企業のIT化支援で提携した。

 具体的にはIPAの債務保証付無担保融資制度を活用し、3行がそれぞれ融資サービスをスタートする。十六銀行は「じゅうろくIT経営支援ローン」、大垣共立銀行「スーパーITローン」、岐阜信用金庫「ぎふしん企業IT支援ローンI・II」の取り扱いを開始した。

 どの融資制度も情報処理サービスやソフト開発企業に加えて一般企業のIT化投資を支援することを目的にしている。融資金額はIPAの債務保証制度で枠組みされている1件あたり1億5000万円、1社あたり3億円以内という内容は共通だ。「自動車部品など県内製造業は大手の傘下に入ることが多い。自前のIT化投資より大手のネットワークに依存する傾向が強く、中小企業のIT投資意欲は低い」(県内ソフト会社首脳)という状況を打破することが目的だ。

 3行とも「全体でどのくらいの融資額になるかという目標は持っていない」(村瀬幸雄・十六銀行常務)という点では共通だが、「大垣、岐阜圏内では製造業も持ち直しており投資も回復している。資金需要は高まっている」(昌山裕・大垣共立銀行金融部長)と、企業からの期待も大きいだろうとみる。

 熊坂賢次・ソフトピアジャパン理事長(慶應義塾大学環境情報学部教授)は、「単純なマーケットメカニズムでは(地場産業は)東京に負けてしまう。IPAおよび地元金融機関との連携によりパブリックがサポートすることで地方の活性化、ひいては地方のイノベーションにつながる」ことを強調。今後、IPAと連携したIT人材の育成、今年4月に開設される「情報通信セキュリティ人材育成センター」を拠点に中部圏をターゲットにしたセキュリティ人材の育成、オープンソースソフト(OSS)に対応した人材育成など多くのプロジェクトを推進していく方針だ。

■需要獲得に技術者確保が課題

 「人材不足」の影響を直接被っているのは地元SIerだ。宮地正直・岐阜県情報産業協会会長は、「首都圏にソフトビジネスが集中している。こちらから東京に進出していかなければならない状況がある」ことで、多くの人材が東京に流れている実態を憂慮する。地元で採用できた人材は逆に、「東京にビジネスがあっても行きたがらない傾向がある」と嘆息する。これを解決するには企業単体でみれば全国で売れるパッケージソフトを持つことやアウトソーシング事業を拡充し全国から受注できる体制を整えることが要求される。

 そうでなくても地元のソフト開発需要は小さく、多くのIT企業がシェアできる規模にはない。「名古屋を含めたビジネス圏も決して大きくない。やはり首都圏を見据えたビジネスが必要」というのは中部圏のソフト開発企業に共通した考えだ。それにしてもソフト人材の高度化は必要になる。宮地会長も「とにかく人材育成。仕事があってもそれに適合できる人材が少なすぎる」と早急に人材育成を進めなければならないと訴える。

 本来、ソフトピアジャパンはベンチャー育成を主眼としてインキュベーション施設設置や起業支援の拡充を進めてきた。ソフトピアジャパンが96年に開設されて今年で10年。ここで起業したベンチャーの中には成長の芽をつかんだ企業もある。

 システムアドバンスは医療向けに「e-透析システム」の販売拡大を推進すると同時にセキュリティ需要の高まりで指紋認証付USBメモリ、同USB外付けHDDの販売が好調に推移している。宇野博幸社長は、「インキュベーション施設で思いっ切り研究開発に没頭してきた製品が、ビジネスにつながり始めた」と成功の手応えを感じている。

 第一コンサルタントの米田昌弘D2U2事業部部長は、「ソフトピアジャパンに入居したことで、他の企業との横の連携ができた。お互いの苦労がわかり励みになった」という。地理情報システム(GIS)関連ビジネスを進める第一コンサルタントの中にあって「デジタルtoユーザーto」を組織名称の由来とするD2U2事業部は、「GISをベースにしたシステム開発や、ウェブシステム開発をOSSで行う」ことで業績を伸ばしつつある。

 ユー・システムズを立ち上げた上野真路代表取締役は、それ以前の経験から組み込み制御をターゲットにした事業拡大を目指す。IPAの「未踏ソフトウェア創造事業」に認定され補助金も受けており、「ソフトピアジャパンに入居していることとIPAの補助金を受けたことで対外的に信用度が増した」という。今後、組み込み制御ソフトの技術を本格的に産業向けに売り込む。

 ソフトピアジャパンが開設されてから10年。ベンチャー育成支援を受けた中から、着実な事業拡大に手が届く企業も出始めた。そうしたベンチャーは、今後の事業拡大のために新たな人材投入の必要に迫られている。10年を節目として、着実にソフト開発拠点として継続して成長していくために必要なことが、ソフト人材の育成というわけだ。
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