コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第41回 岐阜県(1)

2006/01/30 20:42

週刊BCN 2006年01月30日vol.1123掲載

 岐阜県は梶原拓前知事の時代からIT産業、特にソフト産業の集積を図ってきた。その象徴といえる存在がITベンチャーの育成やIT企業誘致の中心となっている「ソフトピアジャパン」だ。大垣市加賀野地区を造成して1994年から分譲を開始したソフトピアジャパンには県内の有力SIerのほか大手ベンダーも相次ぎ進出した。しかし、中部地域の市場の中心はやはり名古屋。距離的には近いものの、市場接近を求める企業から見れば、“帯に短し”の感もある。多くのベンチャーを育成しているソフトピアジャパンと岐阜県が今、狙うのは人材育成。多くの企業を集めた成果が、ソフト人材の輩出に力を発揮する。(光と影PART IX・特別取材班)

新たなビジネスの還流を促進しセキュリティ分野の人材を育成

■中部圏のIT拠点への発展目指す

 これまでの取材の過程でも、多くの地域で「人材不足」という声を聞いてきた。ベンチャーを育成しても、人材が不足すればそのベンチャーも成長できないし、また新たな技術も育っていかない。県の事業としてみても、“ハコ”を作れば終わりというわけにはいかない。新たなビジネスの還流を生み出さなければ、ベンチャー育成も未来永劫続くとは限らない。

 「これまでに多くの企業がソフトピアジャパンに進出し、ベンチャー育成でも成果をあげている」と語る岐阜県産業労働部情報産業課の宇野秀雄課長だが、次のステップとして「これまで投資してきた貴重な財産をどう生かすか。中部圏との連携を考えて、IT人材の育成にシフトすることにした」のだという。

 岐阜県は2001年度から07年度末までの7年間、約130億円で、県の業務を「戦略的アウトソーシング事業」としてNTTコミュニケーションズに発注している。そのデータセンターもソフトピアジャパンにある。さらにヤフーおよびブロードバンドタワーも進出を決めており、現在その工事が進んでいる。こうした企業や施設が完成してしまえば、それで終わりではない。持続的に発展していくためには、新たな事業分野を開拓しなければならない。

 岐阜県は05年8月、それまでの政策に対して県民からの意見を求め「政策総点検」とする報告書をまとめた。ソフトピアジャパンに対しては、「施設稼働率や収益率が低い」という意見もある一方で、ソフトピアジャパンが行ってきたCIO(最高情報責任者)養成といった機能を活用して「新産業育成のための人材を育成すべき」という意見も寄せられた。

 また、中部国際空港開港と愛知万博終了後の経済発展を、何を材料に進めていくかを模索する。中部経済連合会は、9月にまとめたレポート「魅力と活力溢れる中部の実現」の中で、「ソフトピアジャパンを中部の情報拠点とすることを目的に、当面、情報セキュリティ人材の育成を図る」ことをあげている。

 宇野課長は、「かつて梶原前知事の時はソフトピアジャパンを日本のソフト産業の中心に、さらにはグローバルに広げることも考えてきた。しかし、もっと堅実に中部地区の拠点になろうというように変わってきた」と苦笑する。

■ソフトピアに養成センターを開設

 ソフト人材の不足は、全国的に今後大きな課題になると情報サービス産業協会(JISA)でも危機感を強めている。日本でも人口減少が始まった。今後もニーズが高まるIT人材育成を新たなビジネスチャンスとして、まずは堅実に中部地区の拠点としてそのポジションを高めようというわけだ。

 その一環として、岐阜県が進めているのが04年度にスタートした「雇用直結型IT人材養成研修」だ。フリーターやニートが増加する中でIT企業への就職に特化した研修を行うのが特徴で、ITスキル養成だけではなく電話の受け応えなどビジネスマナーも対象となる。

 ソフトピアジャパンに入居し、この研修を担当するティップスの小野木智孝さんによれば、「研修中は男性はスーツ、女性もビジネスシーンに合った服装が求められる」のだという。この研修には県内のIT企業も協力する。そしてそれら企業のニーズにあった人材を育成している。「研修中に面接もあり、その時に内定が出るケースもある」(小野木氏)そうだ。そのため「これまでは、ほぼ100%の就職率」(宇野課長)と、情報産業課でも狙い通りの手応えを感じている様子。

 そして06年4月からスタートするのが、「情報通信セキュリティ人材育成センター」だ。同センターは、総務省の05年度情報通信人材研修事業補助事業に採択され、総額1億7000万円のうち8000万円を政府が補助、残りを岐阜県が負担する。

 ソフトピアジャパンの本部機能があるセンタービル内の1室に企業内のネットワークを仮想的に構築。実際にセキュリティ危機が発生したケースを想定して、その対処法などを実習することもできる。

 コースはセキュリティ管理などを目的としたセキュリティマネジメントコースとセキュリティ技術スキルを高めるためのセキュリティテクニカルコースを設定している。

 「中部地区、岐阜県内の企業を対象に5日間21万円の料金でカリキュラムを組む」(太田秀昭・ソフトピアジャパン地域情報化室長)ことになっている。

 情報セキュリティの強化は急務だが、太田室長によれば、「特に地域の大手企業ではセキュリティ対策に対するニーズが高い」としており、情報提供を含めて地域のセキュリティ対策拠点として注目を集めることになりそうだ。同センターはすでに4月のオープンに向けた準備が始まっており、講習会参加メンバーの募集は3月にも始まる予定だ。
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