ユビキタスが日本を変える IT新改革戦略
<ユビキタスが日本を変える IT新改革戦略>5.大手ベンダーに聞く(3)日立製作所
2006/01/30 20:29
週刊BCN 2006年01月30日vol.1123掲載
「いろいろなアプリケーションでITの利活用を広げようとする時には、ITベンダーだけでは実現できず、過去を振り返ってもユーザー主導でシステムが構築されてきた。しばらくユーザーとベンダーの距離があった時期もあったが、再びユーザーとベンダーが手を携えて新しい時代のシステムを構築すべき時を迎えているとの認識があった。ちょうど、そんなタイミングで政府がe-Japan戦略IIを打ち出してくれたわけで、ベンダーとしては非常にありがたかった」
──なかなかビジネスにつながらないとの声もあるが…。
「ある意味、時代の転換点にあるからだろう。導入しても役に立たないITを淘汰し、システムが質的に変化する時期を迎えているのが原因と考えられる。かつてJRと日立が協力してNHKのプロジェクトXにも取り上げられた旅客販売総合システムMARSを開発したように、ユーザーとベンダーが協力してIT利活用のフロンティアスピリットを発揮していくことが必要ではないか」
──電子政府も期待ほどの需要を創出していない。
「電子政府については、e-JapanIIの段階で業務そのものを簡略化して構築すると書かれていたのだが、見直しをせずにそのままIT化してしまった印象は否めない。ただ、官需そのものは、財政状況からe-Japanによって増えるとは考えにくかった。やはり狙いは、規制緩和によって創出される民需をいかに取り込むかだ。ITは5年で性能が10倍に向上する。新しい利用シーンを開拓できなければ、市場は10分の1に縮小するわけで、規制緩和によってどのような新しい利用シーンを開拓できるかが鍵を握っている」
──しかし、国民はまだe-Japanの恩恵をほとんど感じていない。
「ドラスティックな変化が少ないからだが、水面下では大きな変化が始まっている。まだ目に見える変化は少ないが、これから出てくるだろう。中央省庁のスタンスも以前に比べて大きく変えてきている」
──どこにブレークスルーがあるのか。紙幣での決済が多い間は領収書などの紙もなくならないように思うが。
「株取引や企業間取引は電子決済が急速に進んでおり、電子債権法も制定されればさらに進むだろうが、今後のシナリオを書くのは誰にとっても難しいだろう。重要なのは、企業にとってIT投資する価値のある仕組みをいかに構築することができるか。これまでもIT書面一括法など関係法令をかなり整備してきたが、抜け落ちているものも多い。それらを引き続き整備し、電子マネーやICタグも普及して文化として社会に定着するなかで、企業が利益になると判断してIT投資すれば一気に変革が訪れるかもしれない」
──今後の新戦略で重要なポイントは。
「ITが社会インフラになるなかで、コストをかけずに効率化しようという方向と、ある程度コストをかけても安全性・信頼性を確保しなければならない方向の両方に進めていく必要があるだろう。効率性ばかりを追求して脆弱な社会をつくっても意味がない。リスクの低い社会を作っていくためにも必要な部分には資金を投入する仕組みを構築する必要がある。企業に対しては『セキュリティブランド評価』といった考え方が有益ではないか。セキュリティ投資によってアセットが上昇しROA(総資産利益率)が低下すると評価するのではなく、投資した企業が市場で正当に評価されるための別の評価尺度を導入することも検討すべきだ」
(ジャーナリスト 千葉利宏)
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