ユビキタスが日本を変える IT新改革戦略

<ユビキタスが日本を変える IT新改革戦略>1.IT企業に何が求められるか?

2006/01/02 16:04

週刊BCN 2006年01月02日vol.1119掲載

 政府のIT戦略本部(小泉純一郎本部長)は、2006年からスタートする新しいIT国家戦略「IT新改革戦略─ITによる日本の改革─」を策定、公表した。過去5年間のe-Japan戦略I・IIの実績を踏まえつつ、表題が示すようにITによる改革を前面に明確に打ち出した。日本社会のIT化もインフラ整備や国民のITリテラシー向上では進んできたが、そうした基盤を社会が抱える構造問題の解決や産業競争力の向上にどう生かしていくのか。新連載では2010年度を目標年度に設定した新戦略が目指すIT社会の姿を追っていく。

 「先のe-Japan戦略は、IT産業の育成という視点が欠けていた」(大手ITベンダー首脳)─IT業界の中では従来の戦略に対して、そんな評価が少なくなかった。00年のITバブル崩壊後のテコ入れ策との期待も大きかったためだろうか。とくに戦略IIがスタートした03年以降、IT業界の関心はすっかり冷めてしまった。しかし、ブロードバンド網が低料金化して一気に普及が進み、携帯電話、パソコン、さらにデジタルカメラ、薄型テレビ、DVDの“新デジタル三種の神器”に対する需要が拡大したのも確か。IT業界側に、e-Japan戦略をビジネスチャンスにつなげるだけの“戦略”がなかったと言えるのではないか。

 厚生労働省が05年5月に公表した「標準的電子カルテ推進委員会最終報告」のあと、ITベンダーを取材したなかで「診療報酬などのインセンティブが決まらなければ、最終報告に対応したシステムも開発できない」との声が聞かれた。しかし、電子カルテを導入してどの程度の効果があるのか分からない段階では診療報酬を支払う国民としてインセンティブを決めようがない。IT業界が積極的に関わって電子カルテの実証実験などを通じて、その効果を証明したうえでインセンティブを求めるのが筋である。

 新たなIT新改革戦略のスタートをきっかけに、IT業界でも発想を変えるべきではないだろうか。政府の戦略によってIT需要が現れるのを待っているだけでは、e-Japanと同じようにIT業界にとって期待した果実を得られないまま終わってしまう懸念はあるだろう。アップルコンピュータのiPodで、市場を自ら育てていく発想と戦略の重要性は十分に認識したはず。まずはIT新改革戦略が描いたシナリオの中身を押さえたうえで、その上を行くぐらいの戦略・シナリオを構築できなければ、世界規模で2極化が進むIT業界のなかで勝ち残っていくのは難しい。

 新戦略は、前半部分の「基本理念」と後半部分の「今後のIT政策の重点」の大きく2部構成。基本理念では、最初の目的で「世界に先駆けて2010年度にはITによる改革を完成し、我が国は持続的発展が可能な自律的で、誰もが主体的に社会の活動に参画できる協働型のIT社会に変貌する」ことを宣言。戦略策定にあたって基本とした理念として「構造改革による飛躍」「利用者・生活者重視」「国際貢献・国際競争力強化」─の3つを掲げ、これに基づいて目指すべき将来の社会として次の6項目を示した。

1)活力のある少子高齢社会

2)環境・エネルギー問題への貢献

3)安全・安心な社会の実現

4)行政、企業、個人の新しい姿

5)情報格差のない社会

6)世界に発信する誇れる日本の実現

 後半部分の「今後のIT政策の重点」では、「ITの構造改革力の追求」「IT基盤の整備」「世界への発信」の大きく3つの政策群に分類。個別の政策テーマをみると、医療、電子政府、人材育成など従来のe-Japan戦略の中に含まれているものに、新たに環境問題と自動車交通安全の2つが加わった。それぞれの政策テーマは、現状と課題、目標、実現に向けた方策、評価指標の4つの項目で整理されており、目標に具体的な期限と数値をあげているものが多いのも特徴だ。

 今後IT業界に求められるのは、戦略に書かれた目標や成果指標に貢献する具体的なアイデアやソリューションである。せっかく政府が、e-Japanに比べてより具体的な目標や方策などを明示して、それらを実現するための予算を準備しようとしているのだから、そのチャンスを生かさない手はない。(ジャーナリスト 千葉利宏)
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