コンピュータ流通の光と影 PART IX
<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第35回 愛媛県
2005/12/12 20:42
週刊BCN 2005年12月12日vol.1117掲載
地元に立脚しつつ、全国に目を向ける
■県内のニーズを新規創業企業に提供県内の情報サービス業では、FA系のソフトウェア開発などを中心に、全国的にも評価を受ける企業が少なくない。しかし、県内中小企業のIT化は必ずしも進んでおらず、市場規模の小ささが情報サービス産業の脆弱性を生んでいる面もある。松山で開業したグループウェア開発会社が事業拡大とともに、大阪・東京へと本拠を移していった事例があるのも事実だ。
愛媛県経済労働部産業支援局産業創出課の小坂泰起産業情報係長は「県内で育って、大きくなってくれる情報系企業を生み出すためにも、全体の底上げ策として人材育成を進める」という。愛媛県では、システム設計やデータベース、セキュリティなどの講座受講を支援する「高度IT人材創出・育成事業」を手がけているが、昨年からは、求職中の人材や学生などの受講も可能とし、高いスキルを有する人材を地元で供給できることを目指している。
一方、従来は製造業なども含めたうえで実施してきた新規成長ビジネスの支援では、今年度から情報系にターゲットを定めた施策を開始している。今年10月、愛媛県産業情報センター(運営は、えひめ産業振興財団)内にインキュベートルームを開設した。
「ハコだけでなく、支援体制もしっかりしたものにする」(小坂係長)というように、インキュベートルームを利用する創業者支援のスキームには工夫をこらす。県内のITコーディネータが設立したNPO法人である「ITC愛媛」が、愛媛県産業情報センターや愛媛県工業技術センターと連携し、インキュベートルームの入居者を支援する体制とした。「ITコーディネータと連携することで、県内企業のニーズに関する情報を提供でき、工業技術センターからは技術的なサポートもできる」(小坂係長)と、成果に期待している。
■ユニークな製品や機動性を武器に市場拡大狙う
銅山開発など、早くから工業化が進んだ新居浜・西条地区は、現在でも産業集積の高い地域。ピーシートレンド(新居浜市)は、そうした地元のニーズに対応する中でFA系のユニークな商品を開発。全国に販路を広げ、企業規模は小さいながら県内外の売上比率は50対50となっている。
実装機部品交換ミス防止システム「ポカノン」は、バーコードとハンディターミナルとの組み合わせによって、電子機器などの生産時における部品実装ミスの防止や品質管理に使用するもので、大手電機メーカーなど全国300社以上の企業で採用されている。「地元企業からの受託開発が中心だったが、オリジナル製品が必要と感じていたところに開発依頼があり、それがベースになった」とは、伊藤政彦社長。ハンディターミナルのメーカーが顧客を紹介してくれるほか、部品実装機メーカーもオプションとして機器販売時に取り扱ってくれるため、販路は海外にまで広がっている。ハンディターミナルのモデルチェンジに合わせてバージョンアップが必要になるが、事業効率は高い。
「現在は、品質管理ツールとしての機能拡充など、付加価値を高めることに集中しているが、バーコードで読み込む分野は、他にもある。また、ICタグを利用する場合にも生かせる資産があるので、将来的にはそうした分野にもチャネルを広げたい」(伊藤社長)と考えている。
もう1つの事業の柱である受託開発では、地元有力企業の資材・受注管理などWeb系システムの開発を受託した。これまでも、Web系システムの開発を受託した事例はあるが、規模も大きく本格的なものは初めて。「ポカノンの開発などで、積極的に受託開発を増やす余裕がなかったこともあるが、当社にとっての経験としては大きな意味がある」(伊藤社長)としており、事業意欲は高まっている様子だ。
愛媛県に立地する優位性を示していこうとしているのが、ニューウェイブ(神野慎一社長、新居浜市)。大手ベンダーからの受託ではなく、プライムベンダーとして地元有力企業をターゲットとする一方、関連会社を東京に設立して首都圏の案件を直接獲得する戦略を展開している。
「地元企業の新規取引が増えているわけではないが、既存顧客からは上場を狙えるような有力企業もでてきている。大手ベンダーとバッティングしても、フットワークの良さが有利に働く」と、伊藤一馬取締役システム事業部企業システム部長。さらに星川貴紀取締役システム事業部長も「医療系のオリジナル製品が好調で、そこを手がかりに新たな開発に結びつく事例も出てきている」としている。
一方、愛媛県に居ながら首都圏を攻める戦略の核となるのは、子会社のピュアソル(吉村充弘社長、東京都中央区)。昨年11月の設立で、大手ERPのアドオン開発を東京と愛媛で役割分担しながら推進する。顧客窓口や業務分析、システム設計を東京で行い、システム開発やサーバー運用を愛媛が担う。「東京の顧客企業にとっては開発費が抑えられる一方、愛媛では地元案件より単価がよくなる。グループとして、一貫した責任を負うが、顧客にとっては東京の会社が相手となる」(伊藤取締役)と効用を説く。別会社化することで、賃金体系も変えられるため、社員のモチベーションが高められるというメリットもある。
分業による事業開始から1年が経ち、まずは順調。しかし、思わぬ課題も出ている。「個人情報保護法の施行で、新たな対応が求められつつある。来春には情報セキュリティの認証を取得する計画だが、他にも対応が必要」(星川取締役)とみている。
ニューウェイブでは、事業の機動性を高めるため、ピュアソルのほかにも分社化戦略を積極的にとっている。地図情報からその地域に関連するブログを検索するオリジナルサービスを始めるため、近く「マップログ」という子会社を松山市に設立する。愛媛を地盤とし、その強みを生かしながら、必要に応じてフォーメーションを変える。参考にできる情報サービス事業者は、少なくないのではないか。
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