経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策
<経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策>18.イビサ
2005/12/05 20:29
週刊BCN 2005年12月05日vol.1116掲載
ロイヤルカスタマーの育成に注力
中国など海外生産の革バッグが多いなか、イビサは埼玉県川口市内にある3か所の自社工場で自ら製作している。職人による手作りにこだわり、顧客の需要に合わせた多品種少量生産で高い収益力を確保。05年6月、創業40周年を迎えたが、この間、売上高経常利益率で常に2割前後の高い収益性を堅持してきた。創業以来、地道な営業努力で獲得してきた顧客数は現在約111万人。顧客のロイヤリティを高めるために、70年代からコンピュータを活用して顧客の氏名や住所、年齢などの基本属性と購買履歴を管理。顧客それぞれの属性に合わせたダイレクトメール(DM)の発送や工場見学の招待などに活用している。工場見学は年間50回ほど開いており、国内に自社工場があるイビサならではの強みである。
例えば、これまで普及価格帯の5万円程度のバッグを購入してきた顧客に対しては、少しランクの高い商品を提案して単価アップを図る。過去の価格帯を調べたうえで、急に高額な商品を勧めるのではなく、ゆっくりと時間をかけて「少しずつ上のランクの商品」(小口憲康常務取締役)を購入してもらえるよう、商品のコンセプトや価値を訴えていく。購買履歴を詳しく分析し、無理のない提案内容によって、発送したDMの回収率は2-3割程度と高いレベルを維持している。
メインターゲットは40-60歳の実年女性で、子育てが一段落して可処分所得が再び高まってきた年齢層だ。一般に可処分所得が高いとされる20-35歳の女性は海外スーパーブランドに引かれがちだが、実年層は品質重視、質実剛健で「生涯使い続けられる本物の品質」(角嶋伸介経営本部マネージャー)を求める傾向が強いという。同社は自社で製作したバッグの永久修理保証を行っており、割高感が出ない程度の価格設定で修理も行う。
「母から娘へ世代を越えて使ってもらえる品質を保証している」と胸を張る。修理受け付けは多い日で100件以上にも達しており、長期にわたって愛用しているユーザーが多い。
02年からはFOMAのテレビ電話機能を使って販売現場と本社の意思疎通の迅速化を図ってきた。顧客が、修理が必要なバッグを店舗に持参したとき、その破損箇所をFOMA内蔵カメラで撮影し、その場で修理担当者に転送することで、おおよその修理代金の見積もりを即座に提示できるようにした。これまでは修理見積もりだけで1-2週間かかってきたことを考えれば劇的な時間の短縮だ。
製作するバッグは、徹底した多品種少量生産で、同じ品番のバッグは原則50本までしかつくらない。平均的な月間製作数は約1万本。月間の製作種類は約200種類にも達する。同業他社では、中国などの海外工場に設計図面を送り、大量生産方式で同じバッグを1万本生産するケースもあるなかで、イビサの多品種少量生産は群を抜く。
さらに、同一品番の50本のなかでも、メッシュ柄やパッチワーク柄などの色の配置はあえて設計図面には記さない。職人のセンスに任せることで、より一層の多様性を追求する。絵柄だけでなく、革そのものが持つ特性も利用している。牛など動物の革は背の部分と腹の部分ではシワや固さなどの手触りが異なる。これを意識的に使い分けることで、同一品番の中でも「厳密に言えば同じバッグは1つもない」と、革の素材を生かしたものづくりにこだわる。こうすることで希少価値を高め、オリジナルのバッグを持つ喜びを演出する。
顧客との接点を最大化するため、創業以来、問屋を介さない販売スタイルを貫いてきた。製作したバッグは直営店5店舗と全国約300か所の百貨店や専門店に直接卸している。百貨店など約200か所のうち約150か所の売り場には自社販売員を派遣して接客に当たる。社員がつくり、自社販売員が販売するスタイルだ。
売り場に常駐する販売員には00年頃から携帯電話とバーコードリーダーを配布し、携帯電話のデータ通信機能を利用してリアルタイムに販売データを本社へ報告する仕組みをつくった。販売員を派遣していない販売店からも販売データをもらっている。
ITを活用して、徹底した顧客情報の管理と、現場との密接な連携プレーを構築してきた。年商は40億円あまりで、売上高はここ数年は微増にとどまっているものの、ITの効率性と手づくりのぬくもりの融合によるロイヤルカスタマーの育成で、高い収益力を実現している好事例である。(安藤章司)
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