e-Japanのあした 2005

<e-Japanのあした 2005>62.教育のIT化が目指すものとは?

2005/11/28 16:18

週刊BCN 2005年11月28日vol.1115掲載

 文部科学省は、2006年度以降の次期IT国家戦略の策定作業が進むなかで、「ポスト2005における文部科学省のIT戦略の基本的な考え方」をまとめ、IT戦略本部に報告した。すでに総務省の「u-Japan政策」と経済産業省の「情報・産業ビジョン」の2つの政策パッケージが公表されているが、情報通信関連以外の府省で基本的な方向性を打ち出したのは文科省が最初。次期戦略では「医療」、「電子政府」と並んで「教育」を重点化しようとする動きもあるだけに、今後活発な議論が展開されそうだ。(ジャーナリスト 千葉利宏)

 「これまでは、教育のIT化もパソコン設置台数や校内LANの整備率といったハードウェアに関する議論が中心で、教育の“質”に関する議論がほとんど行われてこなかった。今後はITを使って教育の質をどのように高めていくか、という視点が重要だろう」(生涯学習政策局参事官付・濱田幸夫参事官補佐)。次期戦略を前に、文科省が基本的な考え方を打ち出した背景には、教育のIT化が「IT化ありき」で進んできたことへの危機感がある。ITの世界では、経済性や合理性ばかりが強調されがちだが、「教育は必ずしも効率や採算だけで計れない」という思いがあるからだ。

 「教育の情報化」は、99年12月に閣議決定したミレニアムプロジェクトで取り上げられ、小中学校へのパソコン導入や校内LAN整備などの目標設定はこの時にスタートした。その後のe-Japan戦略I・IIでは、むしろIT産業が必要としている高度なIT人材の育成や、一般国民のITリテラシーの向上などにスポットが当たっていた。IT戦略本部の評価専門調査会が04年3月に公表した第1次中間報告でも学校関係は大学のインターネット授業と単位認定の話題を取り上げた程度だった。

 風向きが変わったのは、04年6月に情報化教育促進議員連盟が「教育情報化推進協議会」の設立を緊急提言してからだろう。9月に公表された評価専門調査会の第2次中間報告には「高等教育についての検討を通じて改めて認識されたのが、初等・中等教育の重要性であった」として、今後採るべき6施策を提言。05年4月の第4次報告でも「学校の情報化」を重点評価するなど外部から“圧力”が徐々に高まっていた。

 今回の文科省の基本的な考え方では、5つの「目指すべき方向性」が打ち出された。(1)学校教育の情報化の一層の推進、(2)人と人との交流を通じた生涯学習の増進に向けた基盤の形成、(3)高度情報社会に向けた最先端の「知」の探求と大学づくり、(4)心身ともに豊かな活力ある社会の実現に向けた文化芸術の創造と発信・交流やスポーツ振興、(5)情報化の影の部分への対応─である。

 「重要なのは、学校にITを導入して本当に教育に役立っているのかだろう。どのようにITで解る授業を行うのか。どのように各大学が特色を打ち出していくのか。IT化の『影』の部分にどう対応していくのか」(濱田参事官補佐)。確かに、学校でのIT利用環境が整備されたあとに、その環境をどのように活用していくかはこれまであまり議論されていなかった印象もある。評価専門調査会第2次中間報告では「ITを“読み・書き・算盤”に次ぐ第4の基本的技能として教育する」との意見も述べられているが、必ずしもIT教育の意義や位置づけが明確になっているわけではない。

 文科省の基本的な考え方では、今後取り組むべき施策も列記されたが、具体的な議論の進め方やスケジュールまでは明示しなかった。今後は施策の具体化に向けた工程表づくりを進めながら、議論を深めていく必要がありそうだ。

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