コンピュータ流通の光と影 PART IX
<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第32回 四国
2005/11/21 16:05
週刊BCN 2005年11月21日vol.1114掲載
IT活用で新たなチャンス 4県に産業、経済連携の動き
■デジタルコミュニティで利便性向上へ今月10日に、四国経済産業局の一室で開かれた「四国デジタルコミュニティ研究会第2回香川地域分科会」において、率直な質問が相次いだ。
「(バイオメトリクスなども含めた)個人認証について、登録など実際の運用は人手によるものが中心になっているが、そこをクリアできるのか」
「個人認証のためのデータを、ICカードなどではなく、サーバー側で格納する場合、(ストレスなく)リーズナブルに処理できる規模はどの程度か」
「ICカードを用いるとして、果たしてコストはいくらかかるのか」
大手ITベンダーの担当者が行ったバイオメトリクス認証に関する報告への参加者の声だ。会合に出席したのは、地元の自治体をはじめ、金融機関や公共交通機関、通信事業者、小売業などの地元有力企業が中心。このほかにも、活性化や再生に取り組む商店街の代表などがいる。個人認証ひとつをとっても、「いかにすれば、自分達のビジネスチャンスに結び付けられるか」という真摯な姿勢で臨んでいることが見てとれる。IT活用への参加者の期待の現れといえる。
経済産業省の出先である各地の経済産業局は、国の施策を広め、支援するための機関であり、どちらかといえばコーディネータの色彩が強い。このため、施策を広めるための機会を設けても、地元経済団体などが出席するものの、個別の民間企業が積極的に発言するという構図は、あまり見られない。質疑応答なども、当たり障りのないものに終始する場合が少なくない。
それらと比べると、四国デジタルコミュニティ研究会は、いい意味で「異例」だ。
「これまでの会合でも、熱心な質問が数多く出たほか、途中から参加したいという企業や団体なども出てきている」とは、四国経済産業局地域経済部情報政策室の熊野哲也室長補佐。参加者の姿勢には、期待した以上の手応えを感じているようだ。
四国デジタルコミュニティは、ITの活用を通じて、企業、ひいては地域の壁も打ち破り、利便性の高い地域社会や活発な経済活動を実現することに目標がある。その入り口として、四国全域を対象とした四国デジタルコミュニティ研究会が設置され、今年9月に第1回会合が開かれた。
2006年度の経済産業省の概算要求において、課金・決済・認証といったサービスを提供するための共通統合事業基盤整備の予算が盛り込まれていることを念頭に、その実証実験を行う地域関係者主導の「デジタルコミュニティ構想推進協議会」に発展していくことを目論んでいる。
冒頭紹介した香川地域分科会は、その前段階における「出会いの場」との位置づけだ。
「香川の場合、地域関係者からのオファーがあり、分科会を立ち上げた。参加企業の取り組みや考えを紹介してもらっている。12月に第3回会合を開き、九州での地域企業のITアライアンスについて学んで、分科会自体は終了するが、これをベースに来年早々にも、推進協議会へと進んでもらいたい」(熊野室長補佐)考え。
■ITニーズに応える企業に期待
もっとも、香川以外の3県については、地域分科会は立ち上がっていない。地域関係者からのオファーがなかったというのが現実だが、個々の企業などがやりたいことを話し合ったり、そのための連携を目指す動きがないわけではない。
熊野室長補佐も「直接的な企業連携に動いている地域があるほか、分科会を飛び越して推進協議会という形に進みそうな県も出てきている」と指摘する。
ITを核として、それぞれの企業が目標に進むために、地域連携というラウンドに臨む下地ができつつあり、それだけのプレイヤーが育ってきているということだ。
たとえば、流通・小売りの有力企業は、不正使用などといったセキュリティ面への配慮から、定額制のICプリペイドカードを導入している。利用者は、残額のあるうちは、過去20回までの利用履歴をレジでプリントアウトし、確認できる。また、額面分を使いきると店側がカードを回収し、リサイクルして再流通させるという仕組みだ。2万円のカードなら500円のプレミアムがつくため、割安感もあり、発行数は大きく伸びているという。
このほか、自治体や、公益性・公共性の高い事業会社などでも、ITによる他者との連携を通じて、利便性の向上を図る必要性を強く感じるようになっているという。
四国デジタルコミュニティ構想の表面的な進捗状況は、各県で異なるが、四国経済産業局では、悲観していない。「確かにかつては、4県ばらばらだったが、今では寄り合える部分は寄り合ってやっていこうという意識が出てきている」(熊野室長補佐)という。
必ずしも、各県が独自に取り組んでいく必要はなく、地政学的に県境を越えて地域連携に進むこともあるとみているからだ。徳島と香川、香川と愛媛、あるいは高知と愛媛といったように、その過程での組み合わせはさまざまなケースが考えられるとしている。もちろん、「やはり4県でやれるようにしたい」(同)というのが最終的な構想だ。
もっとも、そのためには利便性提供側のプレイヤーである行政や企業のITに対するニーズに応え、実現していくためのプレイヤーの存在も不可欠。04年度の特定サービス産業実態調査によると、四国4県の情報サービス業の総売上高は1007億4100万円と前年度に比べ2%程度の成長となっている。しかし、四国域内のITプレイヤーが強力とは言いにくい。
「デジタルコミュニティの実現に向けても、最初は中央のプレイヤーに頼る部分が大きいかもしれない。しかし、整備されていくなかで、地元プレイヤーが育っていくことを期待している」(熊野室長補佐)という。デジタルコミュニティ構想の成功には、地元プレイヤーの積極的な関与が不可欠になるということだ。
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