経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策

<経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策>16.昭和電機

2005/11/21 20:29

週刊BCN 2005年11月21日vol.1114掲載

 空調から各種産業機械、OA機器、家電にいたるまで、あらゆる場面で使用される電動送風機は、製品の差別化が難しく、国内に多数のコンペティターが存在するほか、海外勢との競合も予想される。そのような業界にあって、昭和電機(柏木武久社長)は、生産プロセスの見直しとIT活用による顧客対応力の向上で、3期連続の増収を達成し、今期(2005年12月期)も増収を見込んでいる。

納期短縮と顧客対応にITを活用

 電動送風機は、モーターに羽根を取り付けたもので、比較的簡単な構造の部品といえる。このため、国内メーカーだけでも約100社の競合企業があり、ともすれば価格競争に陥りやすい。そこで、収益力向上の戦略として、計画生産方式から受注生産方式に生産プロセスを見直すことにした。製品在庫を圧縮でき、特注品にも迅速に対応できれば、より多くの顧客を獲得できる。しかし、その過程は平坦な道のりではなかった。

 97年4月、効率化と顧客サービスの向上を実現させるための新たな統合情報システム「SMIS II」を稼働させた。しかし、生産現場や営業、スタッフ部門も含め、受け入れ態勢は必ずしも万全でなかった。同社のIT化推進を担う営業推進グループの栗山隆史グループ長は「営業見積りから仕入れ、設計、会計処理まで一貫したシステムとして、大きな枠組みを作り過ぎてしまった」と振り返る。意気込みが大きかっただけに、あれもしたい、これもしたい、と手を広げ過ぎたのである。

 その結果、マスターデータがうまく取り込めず、その逆に必要なデータが出てこないという状況に陥ってしまった。そのため修復に約半年の時間が必要となり、当初の目論見通りに使いこなせるまでに3年近くかかった。

 IT化に対する社内の不安感は払拭されていなかったが、その一方で、事業のスピードアップを図るには情報力の強化が不可欠となっていた。

 00年頃からは、「地上戦」といえる通常の営業だけでなく、インターネットを活用した「空中戦」にも備えなければならないとの思いが強くなっていった。苦戦した記憶も生々しかっただけに、ITコーディネータにも参画してもらい、どのようなIT化が必要かを抽出。市場のニーズや欲求を把握し、新商品・新サービスを提案できる、という方向性を見出し、2つのプロジェクトを走らせることになった。

 1つは、顧客への情報発信を目的とした「やさしいこいさんプロジェクト」。具体的には、仕様書や性能曲線、CADデータといった技術図書提出のリードタイムを短縮するという内容。標準品なら従来1日かかっていたものを10分に、特注品は10日を1日に短縮する。設計部門や工場が持つ技術図書情報を、営業部門も共有できるデータベースに登録し、検索・利用することが骨格となる。

 「技術陣は、営業部門が正確に使いこなせるか、という不安を抱き、手放したがらなかった」(栗山グループ長)が、認証機能を付加し、誰が関与したかが分かる仕組みとすることで技術陣を納得させた。営業部門もみずからの顧客に対しての責任を負うため真剣に取り組んだことから、ミスが生じることはなかった。

 今では6000機種の技術図書が登録されており、設計部門が関与して出図する事例は、かつての毎月350時間が、毎月100時間で済むようになった。250時間が、新製品の設計に活用できるようになったのである。

 もう1つのプロジェクトは、顧客情報を受信する「通天閣プロジェクト」。日報をただの報告ではなく、顧客のつぶやきを拾えるツールに変えることが、第1の要素。開発、改善、事業拡大の3つのカテゴリーに分類し、営業が顧客から聞いたつぶやきを書き込む。顧客のつぶやきは、週次で一覧になり、データベースとなっていく。技術陣はこのデータベースを新たな製品開発などに活用する。

 通天閣プロジェクトの第2の要素は、顧客の不満への対応力。顧客の問い合わせに対し、効率的かつ体系的に応えるため、「is(いろいろ相談)工房」という部署を置き、技術陣との一元的な対応窓口の役割をこなした。is工房では、技術情報などをQ&Aの形にしてデータベース化、営業はこのデータベースにアクセスすることで、迅速・正確に顧客の問い合わせに対応できる。5700のQ&Aが登録され、頻度の高い3300のQ&Aが公開されている。顧客対応のスピード化で、営業が顧客訪問に充てる時間は増えている。

 現在、標準品の納期はかつての7日が4日になった。技術図書提供や顧客の問い合せへのレスポンスも、大幅に改善している。昭和電機では、スピードアップを切り口に、今後もIT活用を図る考えだ。(山本雅則)
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