経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策
<経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策>14.三州製菓
2005/11/07 20:29
週刊BCN 2005年11月07日vol.1112掲載
食品トレーサビリティを来春、稼働
食品トレーサビリティシステムは、不良品やトラブルが発生したとき原材料までさかのぼって原因を明らかにすることに主眼に置いたシステム。三州製菓ではこうしたトレーサビリティシステムの特性を日常の品質管理にも活用する斬新なシステム設計を行っている。三州製菓では、高級米菓にふさわしい徹底した品質管理を行っているが、さらに精度の高い安全性を実現するために食品トレーサビリティの導入を決めた。数千万円の情報システム投資を行う。消費者嗜好の多様化などにより、米菓業界は厳しい経営環境にされされているが、今回の食品トレーサビリティの導入により、商品に対する「安心・安全性」(斉之平社長)をこれまで以上に高め、付加価値の創出と品質を武器に業績を伸ばしていく方針。
しかし、一方でトレーサビリティの導入により食品の安全性をより徹底させるという経営方針と投資対効果のバランスをどう確保するかが課題として浮かび上がった。食品トレーサビリティは、食品の安全性を確保するために原材料までさかのぼって管理するシステムだが、三州製菓にとって不良品やクレームなどトラブルの発生は、過去の経験に照らし合わせても決して頻繁に起こる事象ではない。「年に1回あるかないか」(同)の頻度に対し、それへの対応をより確実にするために多額の投資を行うのは、投資対効果の観点から見て疑問が残る。
こうした課題を解決するため、経営とITの両方に詳しいIT活用の専門家のITコーディネータなどに相談しながら、顧客が何を求めているのか、自社の強みなどを入念に分析した。この結果、食品トレーサビリティを製造・販売の履歴管理だけに活用するのではなく、日常の品質管理にも応用していくことで、食品の安全性と高い品質を誇る同社の強みを両立させ、かつ投資対効果を最大限に引き出す方法を採用することにした。
食品トレーサビリティは、原材料から最終商品に至るまで一貫して履歴を管理し、万が一、問題が発生したときには、記録しておいた履歴をもとに上流行程までさかのぼって追跡できる仕組みだ。これを実現するために原材料1つひとつに至るまで細かな管理を行う。三州製菓では、この点に着目してトレーサビリティシステムと品質管理システムを融合させたシステム設計を行った。
具体的には、投入する原材料の日付や種類が正しいかどうか、出来上がった商品と梱包材が合っているかなどを確認できるようにする。間違っているときは、その場でコンピュータが警告を出す。
三州製菓が取り扱う商品点数は、OEM(相手先ブランドでの生産)も含めて、年間およそ1000種類にも達する。似たような米菓でも、味付けが微妙に違う商品や、納品先に合わせてパッケージを変えるなど、細かな対応が求められる。原材料の日付管理にも応用する。食品製造では、仕入れた原材料を、日付順に正しく消費していくことで、原材料の鮮度を一定に保つことが求められる。商品の賞味期限にも影響してくるだけに食品製造では重要な管理項目となっている。
これまで使ってきた生産管理システムでも、おおよその管理はできていたが、個々の原材料に至るまでを詳細に管理することはできなかった。今回のトレーサビリティシステムを応用した品質管理システムでは、原材料や梱包材を使う前にバーコードなどでチェックし、万が一、組み合わせや選択が間違っていた時は、リアルタイムでミスを検知することができるようにする。日付の順番を間違えたときでも、同様に検知できるようにすることで、原材料の鮮度を常に一定に保つ仕組みにする。
食品製造業に対して、消費者が第1に求めているものは「食品の安全性」だと同社では考えている。細心の注意を払っていても、煎餅などに醤油を塗る刷毛の毛が、まれに付着することもあり得る。「不良品は、当社から見れば年に1度あるかないかに過ぎないかも知れないが、購入した顧客からすれば、それが当社製品全般に対するイメージ悪化にもつながりかねない」(同)と、直ちに健康に影響することはない小さなミスも逃さない、万全の体制で臨むことが大切だと話す。
工場内の生産設備で、サビが発生しやすい金属製のものは、極力、サビが発生しにくいステンレス製に取り替え、換気用の窓に取り付ける網戸は、小さな虫が入り込むことがないよう、より目が細かいものに取り替えるなど、工場設備全般にわたって安全な食品づくりを実現するための投資に努めてきた。これに加えて食品トレーサビリティなどのITシステムをフルに活用することで、「安心・安全で米菓業界ナンバーワン」(同)を目指す。
同社の安全や品質に対する姿勢は、消費者のみならず、取引先からも高く評価されている。昨年度(2005年6月期)の売上高は前年度比約12%増の約27億円で、今年度(06年6月期)も増収に手応えを感じている。ITをフルに活用し、「安心・安全ナンバーワン」をキーワードに厳しい経営環境の中においても着実な成長を続けている好事例である。(安藤章司)
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