コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第29回 青森県

2005/10/31 20:42

週刊BCN 2005年10月31日vol.1111掲載

 青森県は、水産業やリンゴなどの農産物の生産が盛んな地域である。こうした産業基盤の上で発展してきた青森県のIT産業は、生鮮食料品に関する情報システムの構築実績が多いのが特徴である。また、業務ノウハウを武器にエンドユーザーへの提案営業を強化する動きも活発だ。(光と影PART IX・特別取材班)

農水産など基盤産業のIT化を推進 業務ノウハウ武器に提案営業強化

■生鮮食料品関連の情報システムが特徴

photo 建設資材専門商社で県内有数の企業グループを形成する吉田産業(八戸市、吉田誠夫社長)は、IT関連のグループ会社に日本アイ・ビー・エム(日本IBM)ビジネスパートナーの吉田システム(八戸市、岩舘光雄社長)と、富士ゼロックスのビジネスパートナーのテクノル(八戸市、黒澤祥雄社長)を持つ。

 吉田システムは、吉田産業の業種ノウハウを生かしたオリジナルの建設業向け業務パッケージソフト「アドバンスト建設」を2003年に製品化したのに続き、04年10月には青森県の主力産業の1つである水産加工業など食品加工業向けの業務パッケージソフト「アドバンストフード」を製品化した。これまで顧客企業の要望に合わせてゼロからソフトウェアを組み上げる開発手法が中心だったが、パッケージ化することで「コスト削減や納期短縮」(伊東勇・吉田システム営業部部長)を実現し、市場競争力を高める戦略に切り換えた。

 公共投資の削減などの影響を受けやすい建設業に対して、一定量の需要が常に見込める食品加工業は「不況の影響を受けにくい」(同)ということもあり、アドバンストフードは順調に受注を伸ばしている。すでに今年度(06年9月期)上期の受注キャパシティの上限まで受注残を抱えており、今は早くも下期に向けた営業に力を入れる。営業では既存顧客の満足度向上を重視し、他社によるリプレースを極力抑えている。

 テクノルは、青森県内で本社を含めて8つの拠点を展開し、富士ゼロックス関連の商材やオフィス家具などを販売している。社員数約160人で、このうち営業やサービスなど顧客と直接接するスタッフは約130人になる。ソフトウェア開発を主軸とする吉田システムに比べると、県内全域での営業力が強いのが特徴だ。営業先の企業から基幹系システムを刷新するといったシステム案件の情報を入手すれば、吉田システムへ紹介するなど営業面で密接な連携を図っている。一方で、吉田システムはテクノルの富士ゼロックス商材の2次販社でもあり、プリンタ複合機の販売やドキュメントソリューション関連のシステム開発などで協力している。

 ここ数年の売上高は約40億円と安定した収益を確保してきたテクノルだが、公共投資やオフィスビルの新築案件が減少傾向にあることからオフィス家具の販売が伸び悩んでいる。好調な富士ゼロックス関連のビジネスがオフィス家具の売り上げ減をカバーしているものの、新規事業を立ち上げて再び「成長路線に乗せる」(千葉学・テクノル専務取締役営業本部長)ため、オフィスコンビニ事業に進出。今年10月14日には、コピーやオンデマンド印刷、レンタル私書箱などのサービスを手がけるMBEジャパンのフランチャイズ第1号店「MBE青森店」を開店した。2012年までに東北6県で計25店舗展開する予定だ。

 水産物など食品卸業のヤマイシ(青森市、石川栄一社長)のグループ会社、ワイ・エス・ケイ情報システム(青森市、大沼孝一社長)は、生鮮食料品卸業向けの業務パッケージソフトを開発している。現在、生鮮食料品の卸業者は全国に5000社余りあるといわれており、こうした事業者を対象として大手卸業向けの「市場システム21」、中堅・中小卸業向けの「まんぼう」などを製品化している。食生活の変化や少子高齢化などの影響を受け、卸業は全国的な統廃合が進んでいる。激しい競争に勝ち残るために「卸業同士の統合などをきっかけとした情報化投資」(村上清彦・ワイ・エス・ケイ情報システム第1ソリューション営業部営業担当次長)が増え、大きなビジネスチャンスになっていると話す。

 ページワン(青森市、木村譲社長)は、水産業や農業が盛んな青森県の地域特性から、食品トレーサビリティ市場を有望視する。同社は大手メーカーからの受託ソフトウェア開発を中心にしてきたが、00年頃を境にエンドユーザーから直接受注する提案型のビジネスに大きく舵を切った。近年ではビジネスホテル関連の大規模システムを手がけるなど業種ノウハウを蓄積している。受託開発時代のピーク時の売上高が約8000万円だったが、今年度(05年12月期)は提案型ビジネスが評価され2億円近くに達する見通しだ。今後はトレーサビリティ関連のノウハウを蓄積し、「青森の水産・農業の競争力向上に役立つシステム作りに力を入れる」(木村社長)と、青森県の基盤産業のIT化に取り組む。

■得意な分野伸ばし差別化図るSI

 先進的なITシステムの活用や業務ノウハウで差別化を図るシステムインテグレータ(SI)も多い。NEC特約店のビジネスサービス(青森市、山岸昌平社長)のネットワークソリューション事業部は、通信とコンピュータをIP(インターネットプロトコル)で統合するNECの「ユニバージュ」関連製品をベースとして、PDA(携帯情報端末)や携帯電話を組み合わせたソリューションの提案に力を入れる予定だ。基幹業務システムとPDAなどを活用した情報系システムとの「連携を得意」(辻村明義・ビジネスサービスネットワークソリューション事業部部長)としてきた同社では、モバイルを活用した最新のソリューションをいち早く取り入れる考えだ。

 サン・コンピュータ(八戸市、三浦克之社長)は、独自に開発した建設業向けの労働災害保険管理システムで業績を伸ばしている。首都圏の大手建設会社数社から直接受注するなど、その実力は高く評価されてきた。昨年度(05年8月期)の売上高約5億5000万円のうち、約半分を首都圏など青森県外への売り上げで占める。今後も、業種ノウハウを生かしてエンドユーザーから「直接受注する」(三浦社長)体制を強化し、他社との差別化を図っていく方針だ。

 青森県のシステムベンダーは、水産業や農業を基盤とする青森県の産業特性に根付いたITソリューションの開発や最先端テクノロジーの導入、業務ノウハウを武器としたエンドユーザーへの提案型営業の強化などで市場競争力の増強に努めている。
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