経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策

<経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策>13.カナジュウ・コーポレーション

2005/10/31 20:29

週刊BCN 2005年10月31日vol.1111掲載

 液化石油ガス(LPガス)やガス器具などを販売するカナジュウ・コーポレーション(牧野修三社長)は、徹底した顧客情報管理でビジネスチャンスをつかんでいる。顧客の潜在需要を引き出すCRM(顧客情報管理)システムを1997年に独自開発し、現在までに約10万件の顧客データベースを構築。LPガスやガス器具の販売を増やしている。ガス業界はコンロや給湯器などの電化の波にさらされ、顧客数が減少する厳しい環境にあるにもかかわらず、CRMを駆使し、ガスの利便性を積極的に訴えることで顧客の支持を集めた。

独自開発のCRMで攻めの経営へ

 90年代前半までは、オフコンをベースにLPガスの販売管理などを行ってきた。このシステムはLPガスの検針や需要予測、売り上げ管理などLPガス販売の管理を目的としたもので、CRMの機能はなかった。だが、都市ガスへの移行が進んだり、コンロや給湯器の電化が進むなど、顧客の減少が目立ち始めていた。危機感を持ったカナジュウ・コーポレーションでは、既存顧客を守り、新規顧客を開拓するCRMの開発に着手。97年にオリジナルのCRMを開発した。

 従来のITに対する考え方は、顧客ごとのLPガスの消費量を予測し、LPガスがなくなる少し前のタイミングで顧客宅へガスボンベを配達。顧客宅へのLPガスの運搬回数をできるだけ減らし、業務の効率化、コスト削減を図ることに重点を置いてきた。しかし、CRMの導入を機に顧客宅への訪問回数を増やし、「ガスの利便性を訴える機会を増やす」(馬場幸夫・カナジュウ・コーポレーション経営管理部部長)方針へと大きく転換した。業務の省力化に力点を置いてきたIT施策を、顧客の満足度向上や潜在需要の引き出しなど、より戦略的に活用する考え方へと変えた。

 ガスは、コンロ、風呂場やキッチンの給湯器、冷暖房機などさまざまな用途が考えられる。古くなったガス器具は定期的に交換する需要が発生する。また、ガスを使った冷暖房機は依然として普及率が高い状態とは言えない。近年では電気を使ったコンロや給湯器などの新製品が次々と登場し、火力が強く、熱効率が高いとされるIH(誘導加熱)方式のコンロに人気も出ている。以前はガスを使うことが多かった炊飯器に至っては営業エリア内の世帯のうち約9割が電化してしまった。

 CRMでは、顧客先に訪問したときに、ガスを使っている器具の寿命や消耗具合をヒアリングし、交換時期に差し掛かったタイミングで的確に新しいガス器具を提案できる仕組みをつくった。ガス器具を使っている顧客が、次に買い替える時も、確実にガス器具を使ってもらえるよう、ガス利用を積極的に提案している。以前の“ITを駆使して訪問回数を減らす”方向から“ITを駆使して訪問回数を積極的に増やす”方向への転換を果たした。

 開発したCRMは、99年に外販可能なパッケージソフト「ダイネックス」として製品化して、全国約3万社あると言われるLPガス小売販売店をターゲットに発売した。同様の課題を抱えていたLPガス販売店からは好評で、同業者から多数の注文が来た。顧客の需要を引き出すダイネックスはユーザーから高い評価を得て、LPガス販売業種以外からも引き合いが来るようになった。このため、年内をめどにより幅広い業種でも活用できるCRMパッケージソフト「接点力」(仮称)を製品化する予定だ。

 これまでの「ダイネックス」はLPガス販売業に特化したCRMだったが、新しい「接点力」では、エンドユーザーと直接取り引きを行う幅広い業種での活用を可能にした。例えば、一般小売業や不動産管理会社などでの需要が予想され、今後3年間で100システムほどの販売を見込んでいる。ソフトウェアのライセンス価格はネットワーク対応型で200万円からを予定しており、大手ソフトウェアベンダーの同等のCRM製品に比べて割安に抑えた。

 カナジュウ・コーポレーションのもう1つの強みはインターネット販売である。02年にガス器具などを販売する本格的なEC(電子商取引)サイトを開設して、わずか3年で年商5億円を売り上げる優良ECサイトに育てた。

 昨年度(05年9月期)の売上高約23億円のうち、CRMを駆使するなどして販売したガス器具関連の売り上げが約3億円。これにインターネットでの販売を合わせると計約8億円がガス器具関連の売り上げとなる。LPガスの売り上げがビジネスの大半を占める同業他社が多いなかで、「ガス器具関連の販売比率が非常に高い」(藤村佳輝・カナジュウ・コーポレーション経営管理部ITセンターチーフ)と、ガス本体だけでなく機器販売のビジネスでも成功を収めた。ITを駆使して事業の多角化を推し進めて経営の安定化に努めている。

 今後は、一般家庭だけでなく、ハウスメーカーや工務店などへの営業も強化し、電化への流れを食い止める施策を打つ。すでに複数の工務店と連携して、住宅の新築やリフォームのときにガス器具を顧客に選んでもらえるよう提案活動を強化している。省力化のためのITから、営業戦略を遂行するためのITへと活用方法を抜本的に改め、厳しい経営環境のなかでも着実に業績を伸ばしている事例と言える。(安藤章司)
  • 1